弁護士 西 川 翔 大
1 はじめに
2022年8月29日(月)、大阪高裁第1民事部に係属していた、NEC子会社見せしめ懲戒解雇訴訟の和解が成立しました。以下では事案の概要、和解の成立に至るまでの経緯について簡単に述べます(和解内容につき口外禁止)。
2 事案の概要
原告(高裁では「控訴人」)は、自家中毒という持病がある息子(解雇当時小学5年生)と高齢(解雇当時 歳)の母親と3人で暮らす男性です。自家中毒とは発作的に激しい頭痛や嘔吐に見舞われ、一度発作を起こすと学校内では対応できず、高齢の母親の手を借りて病院に連れて行き、点滴治療を受けなければ症状は治まりません。また母親も白内障や低体温症といった持病を有し、足腰が弱く、メンタルが不安定なため寝込んでしまうこともあるため、息子の対応を完全に母親に任せることはできませんでした。
原告は、NEC子会社で事務的なスタッフ業務に従事していました。しかし、NEC子会社はスタッフ業務を関東(玉川事業場)に集約することを理由に原告に対して関東に転勤するように命じました。原告は既にこれまでも息子や母親の体調を理由に早退・欠勤することがあったため、家庭環境により関東に転勤することは困難であることを述べました。これに対して、NEC子会社はビル清掃会社への出向やSEを即戦力として復帰することを打診しましたが、原告は元同僚が勤務する会社の清掃業務に従事することは配転に応じないことの見せしめであるとして断り、SE業務への即戦力としての復帰も長年のブランクがあるため困難であると答えました。
NEC子会社はこれまで原告が従事したNEC関西ビル内での他の業務に従事することができるかを具体的に検討することなく、玉川事業場への配転に固執し転勤命令を出し、これに応じない原告に対して懲戒解雇を行いました。
3 訴訟の経過
原告は、2019年7月1日に大阪地裁に対して、配転命令の無効、懲戒解雇の無効を前提に地位確認等訴訟を提起し、2021年11月29日に原告敗訴の不当判決を受けました。判決は、原告の言動が反抗的であったことを殊更強調し、原告自身が説明する機会を放棄したと認定し、原告や家族の被る不利益を矮小化し、配転命令権の有効性についても労働者に極めて厳しい枠組みを採用した不当なものであり、速やかに控訴しました。控訴審では、不利益性の補充の主張立証と緒方桂子南山大学教授の意見書を提出し、従来の判例を分析すれば本件配転命令は濫用であることを主張しました。控訴審では、残念ながら原告の母親らの証人申請は採用されませんでしたが、裁判所から本件懲戒解雇の相当性について当事者双方に主張立証を補充するよう求められたため、本件懲戒解雇が行為の態様や動機、目的、使用者側の対応、弁明の機会が付与されていないことなどから、相当性を欠き、懲戒解雇は濫用であると改めて主張しました。結審後、裁判所から和解勧告があり、双方協議した上で和解が成立するに至りました。
4 終わりに
本件は提訴時には報道もあり、毎回の期日に多くの方に傍聴に来ていただき、ご支援や応援の声を賜りました。また控訴審からは緒方先生や労働弁護団の竹村和也先生、民法協の会員の皆様からも適切なご助言と励ましをいただきました。この場をお借りして深く御礼を申し上げます。ありがとうございました。
(弁護団は、鎌田幸夫、坂東大士、西川翔大)