弁護士 奥 田 愼 吾
1 事件の概要
2022年9月5日、高槻市内の中学校の美術教員である原告は、エアコン設置の要望活動を継続的に妨害等され、適応障害を発症したこと等につき、大阪地裁に提訴しました。被告は、高槻市と原告の任命権を有する大阪府です。
2 高槻市におけるエアコン設置状況
高槻市においては、2005年までに、小中学校の校内のほとんどの室内にエアコンが設置されました。しかし、高槻市立中学校の美術室には、現在まで、エアコンは設置されていません。未設置の教室は、技術家庭科の特別教室(木工室等)と美術室のみです。
3 地獄のような美術室の状況と熱中症事故の発生
美術の授業は、絵具や絵筆等の用具等を使用することから、ほとんどの授業を水道施設のある美術室で行います。また、美術部の活動により、放課後の時間帯、夏休みなどの期間も美術室は使用されます。
ところが、例年6月初旬から、エアコンがない美術室の室温は30℃を超え、8月の猛暑日になると室温が40℃を超えることもあります。生徒や教員は、地獄のような暑さの中、授業や部活動を行うことを強いられます。コロナ禍となって以降、生徒・教員はマスクを着用せねばならず、息苦しさも伴います。2021年6月には、美術部の部活動中、生徒2名が熱中症で倒れるという事故が発生し、翌22年6月にも美術の授業を受けた生徒1名が熱中症となる事故が発生しました。
4 エアコン設置の要望活動と校長・市教委による妨害
(1) 原告らの要望活動
原告は、2012年頃から、美術室へのエアコン設置を訴えるようになり、2017年頃から、高槻市長、高槻市教育委員会等に対し、美術室へのエアコン設置の要望書を提出する等の活動(以下「要望活動」)を行ってきました。2020年7月には、生徒会が中心となって、美術室にエアコン設置を要望する署名を集め、市教委に提出し、原告もこれに協力しました。
2021年6月の熱中症の事故が発生した後、原告は、一刻の猶予も許されないと思い、美術部の保護者会で説明の上、美術室のエアコン設置を要望する署名活動を開始しました。
(2) 校長・市教委によるパワーハラスメント
これに対し、校長は、全教職員に対し、署名用紙を回収するよう命じ、署名活動は同用紙の回収により妨害され、中止に追い込まれました。校長は、原告の机上に、要望活動を止めさせることを目的とした書面を置いたり、2022年4月には要望活動を止めるよう指示し、拒否をした原告が席を立とうとすると、原告の腕をつかんだり、体を押す等の暴行行為に及びました。
また、市教委の教職員課長・教育指導課長は、2021年7月~2022年6月までの間に、合計13回の職務命令を発し、原告は合計8日、業務時間中に事情聴取への出席を強いられました。両課長の一連の命令や聴取は、原告の要望活動に対する報復ないし抑止を目的とした違法・不当な行為といえます。
このような一連のパワーハラスメントにより、原告は、2022年4月に適応障害を発症しました。
(3) 求めるもの
原告は、長年にわたり過酷で劣悪な環境で授業等を強いられました。また、市教委及び上司である校長から、要望活動を継続的に妨害等され続けた結果、適応障害を発症しました。そこで、本訴訟では、過酷で劣悪な環境で授業等を強いられた点につき、安全配慮義務違反を理由として慰謝料を、また、適応障害発症による損害については国家賠償法1条に基づく損害賠償を求めています。生徒の命・健康を軽視する市教委の姿勢を改めさせ、生徒のための正当な要望活動が保障される学校現場にするため、力を尽くします。
(弁護団:坂東大士・脇山美春・奥田愼吾)