民主法律時報

《映画紹介》「ワタシタチハニンゲンダ!」

弁護士 松 尾 直 嗣

 これは、高賛侑監督の映画の題名である。2021年3月、スリランカ人ウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管で死亡した。彼女の死は、長年ベールに包まれてきた入管の闇を照らし出した。戦後、日本政府は、在日外国人の9割を占めていた韓国・朝鮮人の管理を主目的とする外国人登録法を制定した。そして、他国からの在留者が増えると、その都度、出入国管理政策を強化してきた。この映画は、すべての在日外国人に対する差別政策の全貌を浮き彫りにしたドキュメンタリーである。

私が、「在日」という言葉を知ったのは中学生の時。ある日、担任の先生から「松尾も忙しいと思うけど、Kは勉強が苦手そうだから、一緒に勉強してやってくれへんか」と言われた。Kは一見強面(こわもて)風。私は、「エーッ」と思ったが、先生に頼まれたら、イヤとは言えない。放課後、図書室へ行って、Kと、方程式を解いたり、植物の観察日記などを書いたりするようになった。ある日、Kが、私の観察日記を見て、言った。「おまえも絵はあんまり上手くないな」。私は「おまえみたいな下手に、言われたないわ」。お互い、こんな減らず口をたたくようになって、親しくなった。そして、ある日。私は「おまえの名前の読み方、なんか変やな」と言った。Kの名前の読み方が音読みだったからだ。Kは、少し考えてから、「これ、本名と違うねん」。卒業の年、Kに「おまえどこの高校に行くんや」と聞いたら、「俺は就職や」と言った。Kのフルネームは未だに覚えているけど、卒業後は一度も会っていない。

さて、そんな経験があったからかもしれないが、私が弁護士になりたての頃、「在日朝鮮人の人権を守る会」の活動に少し参加したことがある。在日の歴史や今置かれている状況、入管に関わる法律などを勉強し、送還や特別在留許可などの言葉も覚えた。

ただ、活動をしてみて、私が入管に持った印象は、ひと言で言えば「冷たい」。当時は、組合運動での事件や弾圧事件等で、警察にはよく行ったが、その頃の警察の印象は、無茶はするけど、まだいろいろと喧嘩ができる相手。そして、体を張ってくる機動隊などと正面から喧嘩しても勝てないけど、彼らは上司の命令で動いているのだから、例えば副署長あたりと話ができれば、事態は動くこともある等、いろいろと勉強もでき、知恵もついた。

しかし、入管は、反応がなくひたすら沈黙するので喧嘩もできず、冷たい空気だけが流れている世界だった。日本人は、仲間にはすごく優しい反面、仲間でない人には冷たいと言われるが、この映画で、入管に関わる歴史を見て、ここは未だに日本の恥部のひとつだなとあらためて思った。ある作家は、昔「われら動物みな兄弟」と言った。姿形や言葉、文化などは違えども、「われら人間もみな兄弟」なのである。

ドキュメンタリー映画「ワタシタチハニンゲンダ!」は5月28日から大阪、京都、愛知で劇場公開が開始され、8月19日(金)から25日(木)まで東京・アップリンク吉祥寺での上映が決まっている。

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