民主法律時報

未払割増賃金訴訟の事件報告 (付加金の支払いが一部命じられた例)

弁護士 川 村 遼 平

1 はじめに

本件は、総務部長職として被告に雇用された原告(請求期間中に定年退職し再雇用)が、未払割増賃金の支払いを求めた事件です。

令和4年3月22日に大阪地裁(岩﨑雄亮裁判官)で判決の言い渡しがあり、原告の請求が一部認容されました。付加金についても口頭弁論終結時に弁済未了だった割増賃金の半額の限度で支払いが命じられましたので、以下、ご報告します。

2 主な争点及び各争点に対する裁判所の判断

主な争点は、変形労働時間制の有効性、各労働日の実始業・終業時間、管理監督者該当性、固定残業代、付加金の可否・金額などでした。

変形労働時間制の有効性に関し、被告は労基署への届出を怠った原告が変形労働時間制の効力を否定することは信義則に反すると主張していました。裁判所は、被告から労使協定の締結に関する具体的な主張立証がないことから、その主張を一蹴しました。

各労働日の実始業・終業時間に関し、被告がまったく労働時間管理を行っていなかったことから、原告が業務に使用していたPCのシステムログに基づいて、労働時間が認定されました。

管理監督者該当性に関しても一応の争点となったものの、原告の主張が認められ、管理監督者には該当しないとの判断を得ました。

固定残業代に関し、被告は、「原告とは午前8時00分から午後8時00分まで働く約束であったから基本給の一部に時間外労働に相当する部分が含まれている」などと主張し、①主位的には1日8時間を超過する部分の基礎賃金と割増賃金のいずれも含まれている、②予備的には上記の基礎賃金のみが含まれていると主張しました。しかし、裁判所は、上記の約束を裏付ける書証がないことなどから、合意の存在を否定しました。

かなり多岐にわたる争点であったものの、ほぼ原告の主張が認められる結果となりました。

3 付加金に関する判断

本件訴訟の係属中、被告は、裁判所の和解案どおりの金額全額を原告に(事前の調整も連絡もせずに)支払いました。

そうした事情もあり、裁判所が付加金の支払いを命じないのではないかとの不安がありました(和解勧試の席上で、裁判所がそうした心証を抱いているのではないかと思わされる発言もありました。)。

原告は、和解勧試後の弁済という提訴後の一事情を過大に評価すべきではないという書面を提出しました。(それが奏功したのかどうかはわかりませんが、)半額の限度であるとはいえ無事に付加金の支払が命じられたことは前向きに評価したいと考えています。

 

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP