決議・声明・意見書

声明

「解雇の金銭解決制度」導入に反対する声明

 2018年6月12日に厚生労働省内に設置された「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」(以下「法技術検討会」という)は、2022年4月12日に「解雇の金銭解決制度」についての議論を取りまとめ、報告書を公表した。

民主法律協会は、すでに2021年11月26日に、同制度は、労働者を救済する制度ではなく、労働者にとっては何のメリットもないとして、「解雇無効時の金銭救済制度導入に反対する声明」を公表した。本報告書の公表を受け、改めて制度導入に反対する旨表明する。

 法技術検討会は、「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的な論点について議論して整理を行うこと」(なお、「解雇無効時」とあるが「労働契約法19条に該当する雇止め時」を含むものとして議論がされている)を目的として設置されたというが、実態は、導入ありきの議論に終始したもので、立法化に向けた土台作りにすぎない。

 法技術検討会では、①選択肢を増やし、労働者の選択により権利行使が可能となること、②紛争解決に向けた予見可能性が高まるようにすること、③一回的解決が可能となることを「基本的な考え方」に据えて検討を行ったようである。

しかし、労働者の権利を擁護するために真に必要なことは違法・不当な解雇の事前抑制であるが、法技術検討会での議論は肝心なその視点が欠けている。

「解雇の金銭解決制度」は、使用者に不当な解雇・雇止めとされた場合に払わなければならなくなるコスト予測を容易にするだけのもので、むしろ違法・不当な解雇・雇止めを助長する。違法・不当な解雇の事前抑制とは真逆の効果を生じさせるものでしかない。

労働者は、違法な解雇であっても、訴訟提起または労働審判申立てをせざるを得ず、労働者の負担は軽減されず、同制度は救済手段としての新たな選択肢とはならない。

さらに、一度、同制度が発足すれば、違法・不当な解雇・雇止めについて金銭で解決することが当たり前のこととなり、使用者側にも申立権を認めるべきとの動きが拡大することは必至である。使用者側にも申立権が認められれば、金銭を支払うことで労働者を職場から排除することが可能となる。それは労働者の働く権利を侵害するとともに、団結と組合活動の権利を著しく阻害するもので、不当労働行為の救済として原職復帰を含めた原状回復が原則とされていることとも相容れない。

 民主法律協会は、労働者の権利を擁護し、民主的な社会を実現することを目的とする団体として、「解雇の金銭解決制度」の導入に断固として反対する。

労働者を救う制度でないことは明らかであるから、労働政策審議会において制度導入の是非を検討する必要はなく、同制度に関する議論を進めないよう求める。

 

2022年5月27日
民 主 法 律 協 会
会長 萬井 隆令

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP