民主法律時報

徴税強化、社会保障の削減にストップを・・・「税と社会保障の共通番号制に反対するシンポジウム」を開催しました

弁護士  大  前    治

 2011年9月8日(木)、「税と社会保障の共通番号制に反対するシンポジウム」が開催されました。会場の国労会館に、60名を超える参加者が集まりました。
 シンポジウムに先立ち、坂本団弁護士(日弁連・情報問題委員会副委員長)から、政府が共通番号制を推進する民間団体を作るなどテコ入れに躍起であるとの報告がありました。その後、伊賀興一弁護士(自由法曹団支部長)が進行役となり、各分野のパネラーから発言がありました。

  1. 共通番号制は、社会保障の削減が狙い
     保険医協会の安藤元博さんは、「政府は、『社会保障・税一体改革』をするというが、社会保障費を削減する流れは変えない。そのもとでの共通番号制は、公正な社会保障のためではなく、個人勘定で給付と負担とのバランスをとることによる給付削減が目的」と指摘しました。実際に財界は、年金受給が多かった人の死亡時に「相続財産から給付金を回収する」という方策を検討しているとのことです。
     年金事務所に勤務する竹本光代さん(全厚生労働組合)は、「窓口で、ずっと年金保険料を納めてきたのに年金額が低すぎるという苦情が来る。これは共通番号制によって解決できる問題ではない。」と指摘しました。政府による社会保障費削減が不満や混乱の根本原因であり、共通番号制はその解決にならず、国民により大きい負担と重圧を押し付けるものであると指摘されました。
     吹田市役所で働く原田さん(大阪自治労連)は、「公務員は目の前にいる人を助ける仕事をする。共通番号制がなくても社会保障や福祉の仕事には何ら支障ない。共通番号制が必要とは思わず、むしろ情報の漏えいの可能性など導入への不安が大きい。」と、現場の実感をこめて発言されました。
  2. 低所得者・中小企業へのへの徴税が強化される
     税理士の清家裕さんは、「税制改革」の名による消費税増税や各種の市民むけ控除制度廃止が進められてきた経緯を説明。「これまで税負担を強いられなかった低所得者や中小業者が新たに納税者になっており、滞納者も急増している。」という実態を紹介しました。
     大阪商工団体連合会の稲田顕さんは、「所得」ではなく「売上」に課税される消費税は赤字業者にも容赦なく課税されるため、中小業者が苦しんでいると報告しました。たとえば、年間所得200万円の飲食業者(3人家族)は、消費税36万円、国保・介護保険31万円、さらに年金33万円を負担しなければならず(他に所得税、住民税も)、手元に僅かの金額しか残らないとのことです。消費税が増税されても価格に転嫁するのは難しく、結局は自分の利益を削って負担せざるを得ません。こうした実態を押し付けてきた政府与党による共通番号制度は、決して苦境にある中小業者を助けるものとは思われないと指摘されました。
     その一方で、証券優遇税制や輸出企業の消費税還付などで、大企業や高所得者の負担
    は軽減されています。激増する納税者・滞納者(=一般市民、中小業者)からの徴税強化のために共通番号制が利用され、不公平な税負担が一層助長されることが、各パネラーから指摘されました。
  3. 共通番号制には、さまざまな矛盾がある
     このほか、次のように共通番号制の問題点を指摘する発言が続きました。
     *共通番号制が広く導入されている韓国の社会保障支出は世界最低ランク。これに対し、共通番号制を導入していないフランスは、同支出は高いレベルにある。つまり、決して 「共通番号制を導入している国は福祉水準が高い」とは言えない。
     *共通番号制の導入コストは6000億円。さらに導入後の維持管理費用も膨大。一般市民にとって、これに見合うほど多大な「利便性」は無い。それだけ多額を投じるなら、 直接に社会保障に回した方がよい。
     *買い物のときに納税者番号を言わないと処罰されるような制度も検討されており、共通番号カードのようなものを持っていないと日常生活ができない事態が起こり得る。
     *診療報酬請求制度において医療をめぐる個人情報が流出した実例もある。共通番号制は、より広範かつ細部の情報が収集管理され、その漏洩による被害は重大。
     *外国では他人の共通番号を悪用した「なりすまし」が問題化している
     *震災復興のためにも「税・社会保障一体改革」は必要という論調もある。しかし、税の改革の名による消費税増税が被災者の窮状に追い打ちをかけることは明らか。
     *ドイツ連邦憲法裁判所は、「国が、人間の全人格を強制的に登録させ、索引を付し、あらゆる面から検索できる棚卸商品のように扱うことができると考えることは、人間の尊厳と一致しないであろう」、と述べて、包括的な番号制は違憲と判断している。
     以上のように、共通番号制と一体となった「税・社会保障改革」には重大な問題があることが分かりました。今後、民法協としても引続きこの問題に取り組む予定です。どうぞよろしくお願いします。

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