弁護士 足立 敦史
1 はじめに
2020年11月30日、裁判・府労委委員会の例会がエル・おおさかで開催されました。今回は、旧労働契約法20条裁判の最高裁判決を踏まえた裁判闘争をテーマとしました。コロナ禍の下ですが、感染予防対策を徹底し、参加者は28名となりました。
2 均等待遇実現のために
例会は二部制で、第1部では河村学弁護士より「均等待遇実現のために」との題目で、有期雇用労働者の格差をめぐるこれまでの5つの最高裁判決(ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件、大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵政事件)について、判決の結果、内容、経過という3点から報告いただきました。
河村弁護士は、これらの判決結果が、「歴史上経験したことのないような有期労働者の格差是正であり、有期雇用労働者の不公正な処遇について最高裁が公的に確認したもので、雇用区分による差別は認められないという社会的意識の変革を生む可能性が広がるものである。」と分析されました。
判決内容について最高裁は、賃金の趣旨によって格差を設けることが不合理か否かを判断していること、賞与・退職金の格差を不合理としなかったことにつき結論ありきの判断で趣旨の解釈理由を示していないこと、事例判断にすぎないことを強調されました。
経過については、「非正規の闘いは常に負ける闘いであったが、旧労契法20条があったから最高裁も態度を変えざるをえなかった。同一労働同一賃金は相対的な規制であるため、安倍政権のもとでもすすめることが可能であった。日本の労働運動が勝ち取った成果であることを理解することが重要である。」と話されました。
最後に今後の取組みとして、「この論点は、一人が問題にすれば波及させることができるものであり、少数でも取り組むことできる。大阪医科大の最高裁判決が出たあと、名古屋地裁では賞与6割を下回るものを不合理とした判断も出ている。パート有期法を活かすため、取組みを「今やらずしていつやるのか。」」と呼びかけられました。
3 日本郵政事件と大阪医科大事件原告の思い
第2部は、西川大史弁護士と日本郵政事件、大阪医科大事件の原告の方にフリートークで裁判の経過を振り返ってもらいました。
日本郵政事件の提訴メンバーが12名に限定されたのは、会社からの雇止め等の報復を避けるために成績優秀で職場に不可欠な人材を選ぶ必要があったことが報告され、原告の方からは、提訴の経緯や配達先での励まし、「大げさではあるが、時代を動かしたかった。非正規の就業規則を変えさせる。」とのお話がありました。
大阪医科大の原告の方が一人で立ち上がった思いとして、「秘書として研究室で受け持っている人数が正職員の5倍であるにもかかわらず、基本給や賞与の有無等、労働条件にあまりにもひどい格差があった。提訴の不安はあったが、アルバイトで人件費を安く済ませようとする大学の働かせ方のひどさを社会に問題提起するために提訴した。」と話されました。
また、大阪医科大事件の運動として、SNS、ホームページ、電子署名等これまで労働組合が積極的でなかったネット上での運動に取り組み、誹謗中傷もあったが、多くの反響があったことが報告されました。その上で、最高裁判決につき「仕事内容は正職員と9割が一緒なのに、どうして賞与がゼロになるのか。判決の字面だけを読むとアルバイト秘書と正職員秘書の働き方が誤解されるように誘導して判示されており、アルバイトがクレームをつけているように読めてしまう。ひどい潰され方をしたが、今後も泣き寝入りせずに動いてほしい。私自身も自分一人のためでなく、非正規の方のためにも頑張っていきたい。」と話されました。
4 意見交換
労働組合から、「社会を変えて司法を変える。」「雇用形態で差別がされない社会に」との訴えがなされました。
つづいて、最高裁判決の枠組みを踏まえてどうやって賃金の趣旨を主張立証していくべきなのか質問があり、賃金の趣旨を記載するような就業規則等はなく支給要件等から主張すべきこと、実際には有為人材論が趣旨ではないとどうやって反論できるのか議論をする必要があることが確認されました。運動面では、当事者同士の横のつながりを含めた支援が大事で、特に非正規の方も立ち上がっていい雰囲気を作ることが重要であることが示されました。格差があれば合理性の立証責任を使用者に負わせる法整備の必要性も主張されました。
最後に原告の方から、「どういう社会にしていきたいかを描いて運動することが重要。」「途中で何度もやめようと思ったが、何度も励まされて裁判を続けることができた。非正規の方は声を上げることができない方がたくさんいるので今後もより一層の支援をお願いします。」との形で締めくくられました。
有期雇用労働者の格差是正の現状と課題、当事者の思いや背景、今後の運動の在り方を考える充実した例会となりました。