民主法律時報

若年労働者の過労自殺事案・民事損害賠償事件提訴のご報告

弁護士 上 出 恭子

  1. 事案の概要
     Kさんは、昭和55年生まれで、いわゆる「ロストジェネレーション」と呼ばれる時期にあたる平成15年3月に大学卒業後、思うような就職先が見つからず、アルバイトを続けていた。平成20年4月、コカ・コーラ商品の自動販売機オペレーションを行う関西ビバレッジサービス(株)の下請業者である日東フルライン(株)に正社員として入社し、トラックに乗って自動販売機に缶ジュース等の飲料水を格納する作業に従事するようになった。
     当初、先輩従業員に同乗して住之江地区を回っていたが、6月の末に急遽、全く別の大正地区を担当することになり、先輩従業員が大正地区の担当者から約1週間の引き継ぎを行い、その後、約1週間、先輩従業員と同乗して大正地区を回った後、7月半ばから、一人で大正地区を担当することになった。
     それ以前からも早朝6時前には家を出て、大阪市港区にある事業所に7時前には到着をして始業し、会社を出るのは早くても8時ごろという、実労働が12時間前後の勤務に従事していたが、7月に入ってからは、慣れない地区の自動販売機がどこにあるのかを確認したり、翌日の荷物の準備をするため等に、自宅に戻る時間は11時前後となり、帰宅時間が12時を回ることもあった。会社の勤務表を元にした、死亡前日からの1か月間の時間外労働時間は100時間を超えていた。
     長時間過密労働の他、先輩従業員から仕事に慣れないKさんに対し、「馬鹿、アホ、のろま」「殺すぞ」等の暴言が恒常的にはかれていた。
     8月2日の早朝、いつもであれば起きてくるはずのKさんが起きてこないのでおかしいと思った家族が、Kさんの部屋を確認すると、死亡しているKさんを発見をした。
     仕事しか原因が考えようのないということでご家族は、Kさんの死亡後すぐに地元の労働組合を通じて、当事務所に相談に来られ、Kさんの労働実態について、ご遺族自ら、会社に数度に亘って聞き取りに行かれるなどして調査を進め、平成21年4月に労災申請を行い、同22年6月、労災認定がなされた。
     なお、労災の手続きの関係では、労災保険の支給額の根拠となる「給付基礎日額」にKさんの不払残業代が考慮されていないとのことで、審査請求を行い、一定額について考慮すべきとの判断がなされたものの、労働保険審査官の判断に基づく労基署の支給決定が不十分なものであったことから、現在、再度、審査請求を行っている。
  2. 損害賠償請求の提訴
     本来、新人には3か月の研修期間が設定され、その間に、飲料水の格納作業の基本や、取り扱う機械の仕組みを理解をして、配送先の自動販売機の設置場所を把握することされていた。
     しかし、本件では、Kさんが勤務を初めて約2か月の間、回っていた住之江地区ではなく、突如として全く別の大正地区をわずか1週間の引き継ぎ期間で担当することとなった。その背景には、複数の請負業者の従業員が発注者である関西ビバレッジサービス(株)から指揮命令を受けるという「違法派遣」状態を解消するという事態があったものと推測されるが、7月という、飲料水の販売量が格段に伸びる繁忙期に引き継ぎ期間もきわめて短期な中で、新人従業員のKさんにとっての業務による心理的負荷は多大なものであった。
     会社には、各従業員がその日一日のコメントを書く日報のようなものがあったが、Kさんは亡くなる直前の7月26日、「倒れそうです。」と書き残し、それを見た、上司の押印がなされている。 
     労災認定を受けて、ご遺族は代理人を通じて、謝罪と法的責任を求める旨の通知を送ったが、会社は代理人を通じて会社には責任がないとして応じないとの返答を行った。
     Kさんのご遺族は、会社の責任追及だけでなく、なぜ、真面目に懸命に働いた息子がこのような死に方をしなければならなかったのかを明らかにしたいとの思いで、平成23年9月7日に大阪地方裁判所に提訴をした。
      今後、法廷傍聴のお願いを等させていただくことがあろうかと思いますが、ご支援をお願いします。

    (弁護団は、岩城穣弁護士、須井康雄弁護士と上出)

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