大阪高等裁判所 長官 安浪亮介 殿
大阪地方裁判所 所長 中本敏嗣 殿
大阪地方裁判所第5民事部(労働部) 部総括裁判官 中山 誠一 殿
裁判所労働部に対し、労働裁判・労働審判等の審理を早期に再開し、
迅速・柔軟に審理を進めることを求める緊急申入書
当協会は、大阪を中心に市民・労働者の立場で労働問題を中心に取り組んでおり、現在、大阪を中心に、弁護士・研究者ほか約350名、労働組合・市民団体約150団体を擁する団体です。今般、貴庁ら(特に大阪地裁第5民事部)に対し、下記の申入れを行います。
記
1 2020年4月7日、政府が新型コロナウイルス感染拡大に関してインフルエンザ等対策特別法に基づく緊急事態宣言を出したことを受け、大阪高裁、大阪地裁は、特に緊急性の高いものを除き、同日以降の4月の裁判等の期日を当事者の意見を聴くことなく職権で取り消し、追って指定とした。その後、2020年5月4日に政府が緊急事態宣言を同年5月31日まで延長したことを受け、同日まで現在の縮小体制を維持するものとし、同年5月に指定されていた裁判等の期日についても一部の例外を除いて取り消し、裁判等の実施を見送っている。この間、訴状等の受付はなされるものの、第1回期日の指定がされない結果、相手方への訴状等の送達すらされていない現状にある。
2 たしかに、裁判所においても感染拡大防止の観点は重要であり、4月の期日を取り消したこと自体に異論を挟むものではない。しかし一方で、迅速な裁判の要請や早期の権利実現の必要性も切迫している。5月に入り、最高裁も各地の裁判所に休止していた裁判の再開を検討するよう通知している。大阪を含む多くの弁護士会から、裁判等は「不要不急」なものではないとして、感染対策をとりながら、裁判等の再開を求める申入れがされている。
特に、裁判等の中でも労働裁判・労働審判を扱う労働部(大阪地裁では第5民事部)は審理を再開し、迅速に進める必要性が高い。労働者は賃金を得て生活をしており、労使紛争の早期解決の要望は切実である。特に、新型コロナウイルス感染拡大や緊急事態宣言に基づく経営自粛等の要請の影響は、幅広い業種の事業者の経営を直撃し、その結果、賃金や休業手当の未払い、解雇・雇止め、内定取消し等の問題が相次いでいる。多くの労働者は明日の生活にも困る状況にあり、当協会にも多数の労働者から深刻な相談が寄せられている。このような労働者の権利実現や生活確保の手段たる労働裁判や労働審判は迅速に行われなければならない。
とりわけ早期の紛争解決制度として設立・運用されている労働審判手続を再開する必要性は高い。これは緊急事態宣言下でも緊急性が高いものとして審理がなされている仮処分等の保全手続と変わらないというべきである。この点、労働審判手続については期日調整を行い始めている事案もあるようであるが、ごく一部に留まっており、また候補期日も相当先である。
3 他方、審理方法を工夫すれば、裁判所における感染防止を図りながらも、労働裁判や労働審判の実施、あるいは遅延・遅滞を最小限に抑えることも可能である。コロナウイルス感染はいまだ収束が見通せない状態にあるが、当協会は、労働者の権利擁護、生活や生存そのものを守る立場から、貴庁ら(特に大阪地裁第5民事部)に対し、以下のことを求める。
① 訴訟について、期日を取り消した事件について速やかに審理を再開し、web会議(裁判所で実施が進められているMicrosoft teamsの利用)の方法や双方電話会議(トリオフォン方式や一方を待機させ交互につなぐ方式)の方法による、弁論準備手続、書面による準備手続または進行協議期日、あるいは期日外の事実上の打ち合わせにより、迅速・柔軟に審理を進めること。また少なくとも「追って指定」とされ指定されないままとなっている期日の調整を即時に開始すること。
② 労働審判について、第1回期日については、申立人の意見を聴いた上で早期の期日開催の要望が有る場合には、保全処分の審尋手続と同様、出頭当事者を必要最小限に絞り、比較的広い部屋や場合によっては法廷を利用するなどの感染防止対策を徹底した上で、労働審判規則13条で定められた申立後40日以内の開催を堅持し、速やかに開催すること。また第2回期日以降の期日については、web会議による方式や、当事者を別室に待機させテレビ会議の方法により対面を可能な限り避ける形での実施を検討すること。
③ 新規提訴・労働審判申立事件について、仮に将来取り消す必要が出る可能性があったとしても、まずは第1回弁論期日を指定して速やかに訴状・申立書等の送達・送付手続を行うこと。
④ 裁判所で行う期日等については、法廷、労働審判室の換気や関係者が使用できるマスクや消毒液の準備を徹底すること。
⑤ 4~5月の期日が取り消されたことで審理が遅延していることに鑑み、2020(令和2)年度については夏期休廷期間を1週間程度に短縮すること。
⑥ 今後緊急事態宣言が解除された後に、再度感染拡大により緊急事態宣言が出された場合であっても、労働者の権利救済の要請に応え、迅速な裁判を堅持するためにも、手続を停止せず審理を進められるよう長期的な対策・措置をとること。少なくとも今後指定された裁判等の期日を取り消す必要があると思われる場合であっても、職権でこれを一方的に取り消すことなく、当事者の意見を聴取し、その意向に最大限配慮すること。
2020年5月18日
民主法律協会 会長 萬 井 隆 令
(申入れ団体)
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民主法律協会
会 長 萬 井 隆 令
幹事長 弁護士 岩 城 穣
事務局長 弁護士 谷 真 介
(窓口・連絡先)
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北大阪総合法律事務所 弁護士 谷 真 介
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