民主法律時報

《書籍紹介》 石川元也弁護士の『創意』を編集して ―― 人権弁護士の先駆者、刑事弁護の創造

弁護士 岩田 研二郎

石川元也先生(元自由法曹団団長、元日弁連刑事法制委員会委員長、修習9期、88歳)が、2019年12月、ERCJ選書(刑事・少年司法研究センター)のシリーズとして、『創意――事実と道理に即して・刑事弁護六〇年余』日本評論社を出版されました。

私は斉藤豊治先生(甲南大学名誉教授、大阪弁護士会)とともにインタビューを担当し、石川先生の刑事事件に関する弁護活動と刑事法改革の取り組みをたどりました。

石川先生は、弁護士登録された昭和32年以降、戦後の新刑事訴訟法を憲法に基づき実質化していく実践活動に尽力され、証拠開示をはじめ数々の新判例を引き出されました。(松川事件、吹田事件、宮原操車場事件、全逓大阪中郵事件、大阪学芸大学事件、白山丸事件、徴税トラの巻事件、国労尼崎事件、大阪証券労組事件、都島民商事件など「無罪判決一覧表」に32の事件が掲載されています)

この本は、単なる思い出話ではなく、なぜその判例が獲得できたか、前著の「ともに世界を頒つ」で指摘された「裁判官との共感」を作り出すために、世論への働きかけとともに「事実と道理により裁判官を説得できる」ことを信ずるという大衆的裁判闘争の教訓も改めて指摘されています。

石川先生が若いときに、刑事弁護人のありかたの教えを受けた毛利与一弁護士(1901年生まれ、1982年1月30日没、人民戦線事件、第2次大本教事件、松川事件、砂川事件などの公安事件で弁護活動を行う。東京裁判では平沼騏一郎の補佐弁護人。1959年大阪弁護士会会長)のことも紹介されています。

私が印象に残ったのは、毛利弁護士が戦後の東京裁判に弁護人として参加して、アメリカ人弁護士の法廷での活気ある裁判官との口頭での弁論をみて、これが真の弁護人だと感得した言葉です。

毛利先生は「私の法廷態度を変化させたものは何よりも東京裁判の経験です。法廷は生き物で、闘争の場であることをつくづく経験しました。私が東京裁判で学んできたのは、弁護士としての『闘魂』ですね。『強情』と呼んでもいい。特定の弁護士じゃなくて、全体の法廷の雰囲気ですね。私はひそかに詠嘆したんです。軍事裁判にしてこれだけ活発にやれるのやと。法廷では裁判所はいばっていましたけれども弁護士も平気で裁判所に喰ってかかる。軍事法廷でも、アメリカの弁護士は、裁判長の発言抑制に対して、「今の裁判所の決定は、『アンデユー・インタフエアレンスだ(不当な干渉だ)』」と抗議する。裁判長が「取消せ」と弁護士に迫るが、弁護士は「取り消さん」、裁判官「今日は法廷から帰れ」(退廷命令だ)それで弁護士は帰るが、次の日ものこのこ出てくる。さすがの平沼騏一郎も「あの強情さは、尊いものだね、君」。「強情」という言葉を使いよった。「あの強情さはほしいな、弁護士に。」。これは、冷水三斗をあびせかけられた気持ちだった。あの時、私も、もう一つやらんけりゃいかんかった。私は「これを大阪へもって帰って、大阪の法廷でやってやるぞ」と、私の瞬発力の好きな性格と合わせて、私流にケースバイケースに間に合わせていった。『これが新刑訴だ、おれは東京裁判で見てきたんだ』」と。

この場面から、「たたかう弁護士」毛利与一が誕生した。このとき、毛利先生46歳でした。

このように先輩から学ばれた石川先生は、日野町再審事件でも今なお現役弁護団で活動されています。また私が今も活動をともにする日弁連刑事法制委員会では、本来証拠隠滅のおそれが低下するはずの起訴後勾留が何のチェックもなく自動的に更新される制度を批判し、「起訴後勾留の再審査制度」の導入を提唱されています。

石川先生が学生時代にメーデー事件で逮捕されたときの上田誠吉弁護士(元自由法曹団団長)の接見メモなども資料として掲載され、みなさんがご存じない石川元也青年の生い立ちもたどることができます。

石川先生の活動を振り返ると、第一に、人権と民主主義の擁護という戦後の弁護士の社会的活動の先頭を行かれた弁護士であるとともに、第二に、新刑事訴訟法を憲法に基づき実質化していく実践活動に尽力し数々の新判例を引き出した傑出した先駆者といえます。

また、個人の力だけではなく、弁護士会や自由法曹団という組織をリードして、社会的に大きな力をつくっていく活動に注力されたことがさらに大きな成果を生み出したことを実感します。

石川先生は、弁護団でも委員会でも理念的な論争には加わることなく、常に具体的な事実に則して、筋を通しながら、実践的な意見を述べられ、落ち着きどころを探られる。結論や先が早く見えすぎるという声も聞くが、歳をとられるにつれて、じっと聞いておられることも多くなったように思います。

石川先生が先輩から何を「継承」したか、そのうえに立って柔軟な発想で、何を「創意工夫」して、新しい判例を勝ち取ったかなどを考えながらの編集作業でした。

(岩田研二郎までお申し込みいただければ、送料込みで1600円で販売します。きづがわ共同法律事務所tel:06-6633-7621 fax:06-6633-0494)

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