弁護士 西田 陽子
*当連載は、弁護士西田がカウンセリング教室で学んだエッセンスを、 法律相談の妖精ココロちゃんとの対話形式でご紹介するものです。
●K先生(以下「K」):今回は、「傾聴」の仕方です。まず、傾聴の前提として、相談者の話を以下の3点に整理する必要があります。①客観的事実(出来事・エピソード)。②相談者が話をしている時点で考え、判断していること(認知・思考)、③出来事について相談者が今感じていること(感覚・感情)です。
○ココロちゃん(以下「コ」):例を挙げていただけますか。
●K:例えば、新しい上司とずっとうまくいっていないということは、①の客観的事実です。「ずっとうまくいっていない」というのは、今判断しているのでなく、相談に来るまでに判断したことだからです。その上司が来る前の方が職場の雰囲気がよかったと思う、というのは、今、相談中に判断していることなので、②の認知です。そのせいで会社に行きたくない気持ちだというのは、③の感情です。
○コ:よく分かりました。
●K:それから、傾聴する際の姿勢に関わる、「カウンセラーの3条件」というものがあります。①自己一致(純粋性)、②受容(無条件の肯定的配慮)、③共感的理解、です。今回は時間の都合で割愛しますが、興味があればぜひ調べてみてください。
○コ:分かりました。すこし調べましたが、とても難しそうですね・・・。
●K:カウンセラーも生涯をかけて勉強することなので、心に留めておくだけで大丈夫ですよ。
さて、傾聴のポイントですが、まずは、冒頭で説明した3点に話を整理しながら、相談者の「主訴」と「ニーズ」を把握することから始まります。「主訴」は、相談者が何に対して悩んでいるかという、問題の根幹です。「ニーズ」は、その問題のある状況が、どのように変化することを望んでいるかということです。
それから、相談者の主訴やニーズに関わる「認知」や「思考パターン」、それに伴う「感情」を把握することです。
○コ:そういえば、法律相談でも、ひととおり問題のある状況について話してもらってから、「どうしたいとお考えですか」と聞いていますね。「認知」や「思考パターン」については、あまり意識していなかったので、これから気をつけてみます。
●K:傾聴のテクニックはいろいろあるのですが、まずは応答技術(ノンバーバル・スキル)が重要ですね。相手の話に影響を与えるカウンセラーの言動を「介入」といいますが、応答技術は、刺激の少ない「介入」のひとつです。頷きが基本で、話に合わせて頭の動きの大きさに変化をつけます。目線や表情、姿勢も重要です。また、無意識に癖で出てしまう動作には注意してください。
○コ:応答1つにも繊細な配慮が必要なんですね。カウンセラーの側から喋るときには、どんなことに注意したらよいですか。
●K:伝え返しという特徴的な技術があります。単語をオウム返しにしたり、要約や言い換えをしたりすることにより、聴いていることや共感的に理解したことを示す介入です。
また、フィードバックという刺激の大きな介入もあります。「よく辛抱されてきましたね」などのねぎらいの言葉や、「責任感の強さに感心します」などの賞賛、「今あなたは手を強く握りしめておられますが、それにはどのような意味がありますか」などの気づきを伝えることです。これらの介入は影響が大きいので、話が落ち着いたときに行うなど、介入の「タイミング」がとても重要になってきます。
○コ:依頼者の心のケアが必要な事案の相談に乗る際に使えそうな技術ですね。
●K:次回は、こちらから相談者に質問する「質問介入」のあり方について説明します。
(第3回へ続く)