弁護士 和田 香
1 シンポジウムのご報告
大阪過労死問題連絡会では、2017年6月14日、「“働き方改革 ”を斬る~これでは過労死は防げない~」と題し、全国一斉過労死110番(同月17日に実施)のプレシンポジウムをエル・おおさかで開催しました。
これは、現在進められている、残業の上限を1か月あたり100時間未満とする等の労基法改正が過労死・過労自殺を生み出す長時間労働を合法化することにつながるという強い危機感から開催したものです。
現在、残業は一定の手続を踏めば何時間させても違法ではない青天井ですから、残業の上限を1か月あたり100時間未満に規制することを評価する声もあります。
しかし、そもそも脳・心臓疾患による労災認定の基準は月平均80時間の時間外労働を目安としていますし、精神障害の労災認定の基準は連続した30日間における100時間の時間外労働時間を目安としており、現行の行政の基準に照らしても労基法で100時間未満の残業を合法化することが不合理であることは明らかです。
シンポジウムでは、冒頭に連絡会会長の森岡孝二さんが「働き方改革」の問題点について講演し、日本ではこれまで何度にもわたって労働時間制度の規制緩和が進められてきたこと、まともな労働時間規制のために残業の上限を週15時間、月45時間、年間360時間に限定すべきことなどを話されました。
また、実際に過労死・過労自殺問題に取り組む弁護士の立場から、松丸正弁護士より、1日あたりの労働時間が最長9時間程度で1か月あたり70~77時間程度の残業時間であるものの(十分長時間労働ですが)、休日が半年間に4日しかなかったという労災認定されたケースがあることに触れ、労基法で100時間未満の時間外労働を合法化することがいかに間違ったことであるか力強く説明頂きました。
続いて、脇田滋さんから、韓国で新政権が誕生したことに触れつつ、ソウル市が労働時間短縮を推進するなど、最近になって労働時間の短縮が急速に進められていることについて基調講演がありました。この中で、私は、労働時間の短縮を進める一方で、市庁舎の清掃の仕事をしていた非正規の女性を正社員化するなどの取組みが併せて行われているという点に興味を感じました。日本では、短時間勤務は往々にして雇用の多様性の名の下に非正規など不安定雇用に繋がりやすいですが、そうではないモデルがお隣の国で進められていることは大変心強く、見習いたいものだと思います。
最後に、全国過労死を考える家族の会の代表世話人寺西笑子さんより、遺族の立場から、100時間未満の残業で過労死・過労自殺が頻発している実情と、100時間未満の残業を合法化することは許されないものであることについて、過労死等防止対策推進法制定後の国会情勢を踏まえてご説明頂きました。
シンポジウムの参加者は53名で、会場はほぼ満席の中、現在の労基法改正の流れでは過労死・過労自殺を防止できないことについて多角的な視点から議論がされたシンポジウムでした。
2 過労死110番のご報告
今回の過労死110番は、全国的な問題意識の高まりもあって、全国で281件(内大阪33件)の相談が寄せられました。
相談内容は、主として長時間労働やハラスメントの多い職場の改善に関するご本人やご家族からのご相談であり、労働現場では依然として長時間労働やハラスメントが横行していることがよくわかる相談会となりました。