弁護士 森 信雄
1 事案の概要
エミレーツ航空(以下「会社」という)は世界に冠たる大企業であり、直近まで28期連続で黒字を計上している優良企業である。
西日本支店は日本におけるコールセンター業務を担っていた。2013年1月、パワハラや残業代未払問題を契機に3名の労働者(以下「組合員」という)が労働組合(以下「組合」という)を結成した。
経営合理化策の一環として、2013年5月に中国・広州コールセンターが開設され、大阪コールセンターへの電話が転送されるようになった。組合は、業務量減少に伴うリストラの可能性について危惧を持ち、会社に問いただしたが、会社は、「雇用は保障され、配転もない」旨回答した。
2013年6月以降、パワハラや残業代未払問題を主たる議題として団交が行われたが、2014年3月になっても未解決のままであり、組合は引き続き会社の責任を追及していた。
このような状況下の2014年5月、会社は、突然、大阪コールセンター等の廃止を発表し、組合員を含む労働者13名に早期希望退職を含む複数の選択肢を提案した。3つある新設ポジションへの応募期間はわずか2日、希望退職への応募期間はわずか2週間であった。
組合は、団交が開催されるまで会社提案を凍結するよう求めたが、会社は無視し、本来の応募期限が過ぎた後に初めて団交が開かれた。
組合は団交による解決を求めたが、会社は、一向に応じないまま、同年6月、大阪コールセンター廃止を強行し、その後、業務がなくなったとして、組合員に自宅待機を命じ、同年9月に解雇した。
そこで、①同解雇は整理解雇の要件を欠き無効であることを理由に地位保全・賃金仮払いを求め、②同解雇は不利益取扱い及び支配加入にあたるとして不当労働行為救済を申し立て、さらに、③本訴を提起した。
2 2015年3月31日に勝利の仮処分決定
裁判所は、本件解雇は整理解雇に該当するとし、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④解雇手続の相当性の四要素を総合的に考慮して判断すべきとした。
そして、人選及び解雇手続については不合理、不相当とは言えないが、本件解雇は経営戦略に基づくもので人員削減の必要性、緊急性に乏しく、そのような場合にはより高度の解雇回避努力の履行が求められるところ、十分に努力が尽くされたとは言えないとし、これらを総合すれば解雇は無効であるとして、解雇前の賃金の大部分について仮払いを命じた。
人選の合理性と解雇手続の相当性を否定しなかった点に問題が残るものの、本件解雇を無効と判断したのは評価できる決定であった。
3 2016年10月11日、会社を断罪した府労委命令
府労委は、事実関係について詳細な認定を行ったうえ、整理解雇の四要件のいずれも認め難いこと、会社と組合が対立関係にあり本件自宅待機及び解雇に至る経緯において組合軽視の姿勢が窺われることを考慮すると、本件自宅待機及びそれに連続する解雇は不利益取扱いにあたり、かつ支配介入にも当たるとして、①解雇がなかったものとしての取扱い及び賃金相当額の支払い、②ポストノーティスを命じた。
組合の完全勝利と言える内容である。
4 速やかな解決をめざして
仮処分事件及び府労委事件の連続勝利により、組合は今後の闘争の大きな足がかりを得た。
本訴は現在係属中で、主張整理はほぼ終了し、そろそろ証人尋問という段階に至っているが、府労委での完全勝利を踏まえて、本訴の結果を待たずに解決することが求められている。
(弁護団は、豊川義明、谷田豊一、佐々木章各弁護士と筆者である。)