大阪憲法ミュージカル共同代表(事務局長)・弁護士 田中 俊
1 2016年6月2日から6月5日までの4日間、大阪ビジネスパーク円形ホールにおいて、 大阪憲法ミュージカル2016「無音のレクイエム」が上演されました(全7公演)。 おかげさまで、400人の会場は全公演満員、のべ2800人を超える皆様にご来場いただき、大盛況のうちに幕を閉じました。チケット販売、チラシ、ポスターの普及、カンパなど、ご協力いただいた民法協所属の法律事務所、弁護士、労働組合、個人の皆様に改めて御礼を申し上げます。
2 鑑賞いただいた皆様方からの感想も、「凄く分かりやすかった」「クオリティが高いのに驚いた」「舞台後半の大空襲シーンからは、涙が止まらなかった」「もっとイデオロギー色の強いミュージカルと思っていたが、当たり前のことを当たり前に表現しており、凄く納得できた」「憲法のメッセージをミュージカルというエンタティメントを使って見事に伝えることに成功している」「中学校、高校で上演すべき」「これで終わらせるのはもったいない。是非再演を!」等とお褒めの言葉を多数いただきました。公演終了後も、ご来場いただいた方から、ミュージカルの話を持ち出され、「凄くよかった」と声をかけていただきました。明らかに反応は今までと違っていました。
3 今回のミュージカルが成功した要因は、幾つかあると思います。
一つは、内容が、大阪の千日前を舞台にした戦前、戦中を中心に描いた実話で、登場人物は全員大阪弁で会話をし、取っつきやすく身近に感じたことがあると思います。ことに戦争を体験した年配の方々には(私の父親もそうですが)、とりわけ強い思い入れがあり、涙無くしてはみれなかったと聞きました。
作品前半は、吉本風の舞台で、映画館常盤座を中心に、無声映画を見るものと作る側の明るくコミカルなシーンが続きます。ところが、後半はトーンが一転。日本が戦争へと進む中、映画など娯楽に対する規制が強まり、ものが言えない時代になっていきます。主人公達にも赤紙がきて戦地に出兵ということになるのです。そして、クライマックスは最後の大阪大空襲のシーン。この陰と陽のコントラストがはっきりしているため、陰の部分をより際だたせ、戦争の恐ろしさを伝えることができた。ここが、「分かりやすい」と感じた要因だったと思います。
そして、今回、制作を依頼した劇団往来のスタッフに、素晴らしい曲、演出、脚本を作っていただき、厳しい要求に出演者が見事に応えたことも大きな要因だったと思います。
4 私たち事務局は、このミュージカルを作るために、構想約1年近く、長期にわたって、劇団往来と議論しました。話題は、憲法、安倍政権、橋下さん、演劇論、市民ミュージカル等について、お互いの意見を交わしました。その議論を経て、この劇団なら「憲法のメッセージを伝えてくれる」と確信しました。劇団往来には、「チンチン電車と女学生」という広島への原爆投下を通じて、平和を伝える素晴らしい作品があるのですが、その作品を見ていたことも大きかった。我々がやってきた憲法ミュージカルと相通じる作品でした。
前回、ドクターサーブで、ハンセン病に対する表現とかで問題を起こしたので、今回は、作品の内容についても、時間をかけて議論しました。共通したコンセプトは、①今の時代が、マスコミの報道自粛、秘密保護法など「表現の自由」が規制されるなど戦前と酷似していることを伝えたい、②改憲、護憲の議論はあるが、憲法のメッセージである平和の大切さを知ってもらいたい、③内容はシンプルに分かりやすく、でした。その中から、大まかなあらすじが浮かび上がってきました。
無音のレクイエムの無音は、事務局とスタッフの議論の中から、私が発案しました。無声映画とものが言えない時代をかけて「無音」が生まれ、そういった時代背景の中で、たくさんの人が戦争でなくなっていったことへの「鎮魂歌」と言う意味で「レクイエム」を付けました。
無音のレクイエムの後半の大阪大空襲のシーンの脚本は、生々しく、残酷で、恐ろしい状況を描く場面、セリフが続きます。このセリフは、創作ではなく、被災者の手記に基づいています。ピースおおさかで「大阪大空襲」をテーマに関連資料を展示しており、その中に、被災者の手記がありました。後半のシーンは、まさに実体験に基づく証言であるからこそ、見た人に戦争の悲惨さ、恐ろしさ、残虐さが説得力をもって伝わってきたのではないかと思います。
5 「憲法に込められたメッセージを、ミュージカルに乗せて伝える」ここに憲法ミュージカルの真骨頂があります。今回は、平和であることの大切さを知ってもらいたかった。 年前の、「この時代」の惨禍、悲劇を通じて、日本国憲法が生まれてきました。そして、大阪が空襲で焼け野原になったのもわずか 年前のこと、憲法が生まれてきた経緯、大阪大空襲を知った上で、護憲か改憲かを議論して欲しい、日本国憲法が生まれてきた過程、これなくしては、改憲の議論をすべきでないと思いました。
これまでのミュージカルは、関東から山田洋次さんの系譜に繋がる亡田中監督を初めとしたスタッフに制作していただきました。今回は、初めて大阪で自前でミュージカルを作りました。これが成功した意義は大きいです。次に繋がります。大阪に憲法ミュージカルの土台を作ることができたのではないかと自負しています。
良いことばかり書いてきましたが、反省点もあります。今回は、実働のコア事務局メンバーが少なく、マンパワーが不足していました。これは今後の課題です。ただ、その 中で、あすわか、憲法カフェ、弁護士会の憲法委員会に所属する若手弁護士が、「無音のレクイエム」を見に来てくれました。この人達と繋がって、より素晴らしいミュージカルを作って行けたらと考えています。
6 最後に、「無音のレクイエム」の中に出てくる曲「この時代に生まれて」の最後の一節の歌詞を紹介します。
「 この時代に生まれて
声を上げずにいるのなら
この時代に生まれた
子どもたちに何を誇るのか
国が時代を作るなら
国を作るのは人のはず
青い空にも暗い闇にも
人は時代を変えられる」
この曲こそ、戦争で亡くなった方々への「レクイエム」に他なりません。ここに本ミュージカルのメッセージが込められていると言っても過言ではありません。