弁護士 金 星 姫
本年8月31日に提訴したフジ住宅「ヘイトハラスメント裁判」について、弁護団を代表し、ご報告させていただきます。
1 事件の概要
フジ住宅株式会社は、みなさまご存知のとおり、大阪に本社を置く分譲住宅事業・住宅流通事業等を行う株式会社であり、1000人規模の従業員を抱える東証一部上場の大企業です。フジ住宅株式会社に約13年勤務するパート社員の在日コリアン女性である原告は、フジ住宅株式会社と代表取締役(会長)を相手取り、今回、裁判を起こしました。
まず、フジ住宅株式会社では、業務内容とは一切関連のない資料が、連日、大量に配布されており、その資料の中には「ヘイトスピーチ」に該当するものが複数含まれているのです。一部例示すると以下のような記載です。
「韓国は(略)嘘をついても責任を取らない、嘘が蔓延している民族性」
「自分の都合の良い事しか考えないという中国、韓国の国民性は私も大嫌いです。」
「在日特権のありえない控除内容に驚きです。市県民税も所得税もなく、その上問題になっている生活保護の不正受給でお金まで貰えて、在日の人からすれば日本は本当に居心地の良い国と思います。それをまともな日本人が支えているようなもので、逆差別のような状況を生む特権は無くすべきです。日本人のための日本国であって欲しいです。」
(※当然ですが、フジ住宅は、原告の給与から所得税等を源泉徴収しており、このような内容の資料を配布するということは、上記記述が虚偽であることを知ったうえで殊更配布しているとしか考えられません。)
そして、このような記述には、各文章ごとに、会長が◯印や下線を引くなどして強調し、会長が同記載内容につき賛同していることが、全社員に宛てて表明されているのです。
また、フジ住宅株式会社では、「日本の自虐史観」を批判し、南京大虐殺や従軍慰安婦制度を否定するといった内容の資料が極めて大量に配布されています。
さらに、フジ住宅株式会社及び会長は、資料配布行為にとどまらず、パート社員を含む全社員を、業務時間中に、育鵬社教科書採択運動へ動員するといった行為にまで及んでいるのです。
配布物には、原告と接点のある従業員が書いた文章も複数挙がっており、原告は、「職場の同僚が、韓国人や中国人等への誹謗中傷をしている。在日韓国人である自分も彼らから憎まれたり疎まれたりしているのではないか。」等と考え、恐怖や怒り不安などといった感情を抱え、職場において極めて多大な精神的苦痛を被っており、社内での対人関係においても悩まざるを得ない状況です。育鵬社教科書採択運動等への動員についても、「やりたくない」ということを会社に対して表明せざるを得ず、このような意見表明は、原告にとって精神的苦痛をもたらすものです。
被告らの以上の行為は、原告の就業環境を乱すものであり、原告の人格権を殊更侵害するものだといえます。
2 本件訴訟への想い
この事件と私の出会いは、2014年5月10日に開催された、民主法律協会派遣ホットラインでした。電話を受けた私は、「ヘイトスピーチや極めて偏った思想に晒されながらの就労は、どんなに苦しいだろうか。」と、原告が会社で置かれている現状を想像し、胸が痛みましたし、同じ在日コリアンとして、とても他人事とは思えませんでした。
また、これは、原告一人の問題ではなく、日本社会全体の問題であるとも思いました。会社やその代表者の思想信条を労働者に押し付けるようなことがあってはならない、企業に勤める全ての人々がいきいきと働ける就業環境を作らなければならない、そのような想いで相談を聞いていました。
ホットラインに同席していた村田浩治弁護士と南部秀一郎弁護士と3名で弁護団を結成し、何度も打ち合わせをし、改善申入れや大阪弁護士会への人権救済申立てをするなど、1年以上かけて取り組んできました。ですが、改善が見られることはなく、訴訟に踏み切る形となりました。
本件は、本年8月31日に大阪地裁岸和田支部に提訴しましたが、合議体のある堺支部に回付され係属しました。第1回期日は11月12日午前10時~です。
提訴後もフジ住宅株式会社では上記のような資料配布は続き、また、現在では、社内で、会社を提訴した原告を非難する内容の文書までもが配布されている状況です。勤務を継続しながらの訴訟は、原告にとって負担が大きいものだと痛感していますが、弁護団一同、原告を支えて共に闘って行こうと強く決心しています。
みなさま、この訴訟に関心を持って頂き、たくさんの支援をくださいますようお願い申し上げます。