民主法律時報

改正育休法の趣旨潜脱のマタハラ進化系に立ち向かう― 京阪ステーションマネジメント配転命令無効確認仮処分申立事件 ―

弁護士 西 川 大 史

1 はじめに
2015年2月17日、夜間などの不規則勤務を含む業務への配転命令を受けて育児と両立できなくなり、休職に追い込まれた女性(京子さん:仮名)が、京阪電鉄の子会社である京阪ステーションマネジメントに対し、配転命令の無効確認を求める仮処分を大阪地裁に申し立てました。

2 事案の概要
京子さんは夫婦共働きのため、5歳の長女と3歳の長男を自宅近くの保育園に預けています。彼女は、2011年に二人目の子ども(長男)を妊娠出産し、産前産後休業・育児休職を取得し、2012年5月に職場復帰しました。復帰後は、育児短時間勤務として、本社で事務職などの勤務に従事していました。
ところが、会社は、2014年10月に、長男が3歳を迎えたことに伴い、京子さんの育児短時間勤務を終了させて、事務職から駅改札業務への配転を命じました。配転後の勤務時間は、午前8時から午後9時45分までのうち8時間勤務という不規則勤務でした。現在子どもらが通う保育園の開所時間は午前7時から午後7時までのため、これでは子どもらの保育園への送迎ができなくなります。京子さんは、夫婦で時間を調整して、なんとか送迎ができないか検討しましたが、夫も早朝勤務や深夜勤務があり、保育園への送迎ができない日が出てきます。その他に、子どもらの保育園への送り迎えを頼める親族や親戚縁者も近くにいません。
そこで、京子さんは、会社に対して、勤務時間の配慮や配転命令の撤回を求めましたが、会社の回答は、「あなただけを特別扱いできない」との一点張りです。しかも、会社は、「自分は両親の介護のために妻に会社辞めさせました」など退職をほのめかすなど、彼女の申し出に対しては、何らの配慮もしません。そのため、現在も休職扱いを余儀なくされています。

3 配転命令の無効確認を求めて
京子さんは、会社側が子育て中の彼女の勤務時間帯について一切の配慮をしないことから、配転命令の無効確認を求めて仮処分申立に踏み切りました。
配転命令を受け入れることになれば、保育園の開所時間との関係で、子どもらの保育園への送り迎えができず、育児と労働の両立が不可能となり、退職することでしかその不利益を回避できなくなります。
育児介護休業法第24条は、小学校就学の始期に達するまでの子どもを養育する労働者に関する措置を講じるよう努めなければならないと規定しています。また、育児介護休業法第  条は、配転について、子の養育状況に対する配慮を事業主の義務としています。しかし、会社は京子さんに対する配慮を一切しておらず、その努力すら怠っているのです。彼女からの申し出に対して、特別扱いできないとの一点張りで、既に配転命令が所与のものとして押し付けるような態度に終始しています。
一方、親会社の京阪グループでは、「ワーク・ライフ・バランスへの取り組み」として、育児に取り組む従業員への配慮を企業理念として全面的に打ち出しており、厚生労働省の次世代認証マーク「くるみん」まで取得しています。今回の京子さんへの会社の対応は、まさに京阪グループの企業理念に反するものです。

4 本申立の意義
本件配転命令はマタハラの進化系といえるでしょう。小学校就学前の子どもを育てる労働者にとって、勤務時間に配慮した労働形態を求めることは決してわがままではなく、当然の権利主張です。
京子さんは、「妊娠、出産、子育てしながら、長く働き続けられる社会になってほしい」と訴えます。この裁判が、働く女性の権利の実現、育児と労働の両立の実現の一助にできればと思っています。

(代理人は、有村とく子弁護士と当職です。)

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