民主法律時報

書籍紹介 萬井隆令著『人間らしく働き生きる 労働者・労働組合の権利』

弁護士 宮 本 亜 紀

 民法協会長の萬井隆令先生のご著書『人間らしく働き生きる 労働者・労働組合の権利』が昨年  月に発行されています。私は、龍谷大学法科大学院にて萬井先生から労働法と労働弁護士をめざす気概の教えを受けました。国労闘争など労働運動の現場で直に聞いて見た事実から、労働法の本質と解釈論を生き生きと教えていただいた日々を思い出しながら、読ませていただきましたのでご紹介します。

 まず、本書は、労働運動に携わっている方々に、大変読みやすく書かれていると思いました。167頁のコンパクトさ(薄さ)でありながら、労働団体法・労働者保護法の論点を体系的に網羅して、最高裁判例から最近の裁判例まで丁寧に説明されています。ちょっとした具体例があってイメージを掴みやすく、欄外の注釈等の細かい説明がないので読み通しやすいのです。末尾の関連法規ですぐに参照でき、判例や行政通達が引用されていて必要あれば手掛かりにして調べることもできます。流行のブラック企業対処法などのハウツーではなく、目次を見ても、労働法の分厚い教科書のような体系的論点が挙がっていますが、それらが平易な言葉で短くまとめられて、忙しい中で労働法を学ぶには最適です。

 そして、解釈に対立がある論点について、憲法と労働法の本来の意義から解けば、最高裁や一部の学者の解釈論では理屈が通らない、労働者の生存権保障の観点から実態に即して構成すれば、こうあるべきとの萬井先生の理論が明快で、労働運動に自信が持てると思います。

 さらに、安倍政権と労働法制改革についても補論を設けて、残業代ゼロ法案、雇用特区構想、派遣法改悪などの内容解説だけでなく、労働政策審議会を無視し、厚労省の意見も聞かずに暴走する安倍政権の危険な情勢も告発されています。

 そして、本書は、労働運動にまだ踏み入れていない人達にも広げていただきたいと思いました。本書の題名は、いたってシンプルな「人間らしく働き生きる」です。働けど働けど…と息が詰まる日常に、「人間らしく」って何だろうと改めて考え、基本的人権を定める憲法と、経済力において劣位にある労働者が団結して労働契約を改善させることが認められた労働組合法、最低限度の個々の労働者保護が定められた労働基準法等の価値に気付かされます。

 安倍首相が2014年1月世界経済フォーラムで、労働者の権利を「既得権益」、労働法を「岩盤規制」として自らドリルとなって破壊すると言明して暴走する今こそ、「なぜ労働法が生まれたのか」「労働法は何を規制(保護)しているのか」を学ぶことは重要です。人間らしく働き生きたいすべての労働者に、戦前の命をも掛けた闘いが労働者の権利として確立し、戦後70年近く血と汗と涙で維持し拡充してきた労働法の内容を知り、労働者としての確信を持って労働運動に足を踏み入れるための絶好の書です。

 本書のプロローグでは、経営に必死で残業代割増も知らない小さな町工場の社長や、悪知恵で労働法をかいくぐるブラック企業や、労働法を守らず済ませたい大企業等が入り交じる世の中であること、経営者は労働者のささいな要望でさえ頑なに聞き入れず、引き下がらない労働者に圧力をかけ続けてきたこと、労働者が声を上げるには多大な苦労が伴うけれど、自らと家族の健康や生活を守るために労働運動が「権利のための闘争」として必要なことが、労働者の心情に寄り添って丁寧に説かれており、ふと「人間らしさって何だろう」と立ち止まった人達の心に響くと思うのです。

2014年11月10日
学習の友社 発行
定価 1600円+税

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