JAL不当解雇撤回裁判原告団 事務局次長 長 澤 利 一
1 はじめに
2014年8月28日、東京地裁は東京都労働委員会の不当労働行為救済命令の取り消しを求めたJAL側の訴えを棄却しました。これによって、JALが会社更生手続中に、労働組合への支配介入行為があったことが明らかになりました。この事件の概要と判決の特徴を報告いたします。
2 事件の概要
JALは2010年1月に会社更生法を適用され再建が始まりました。更生計画に描かれた新しい姿は、その規模を3分の2にして、収益のあがる企業にするというものでした。人員体制に関しては、従業員を1万6000人削減する計画のもと、希望退職と特別早期退職が繰り返されました。こうした中、JALは整理解雇の人選基準案を突然発表し、該当するパイロットと客室乗務員を自宅待機とし退職強要を繰り返しました。
組合員が解雇に追い込まれる中、パイロット組合(JFU)と客室乗務員組合(CCU)は整理解雇撤回の要求を提起し争議権投票を行いました。本件不当労働行為はこの投票期間中に行なわれました。管財人らは、「争議権が確立された場合、それが撤回されるまで、更生計画案で予定されている3500億円の出資をすることはできません。」と発言しました。この発言は職場に大きな動揺と混乱を生じさせ、JFUは投票を中止せざるをえなくなりました。
JFUとCCUはこの発言を不当労働行為であるとして、東京都労働委員会へ救済申立を行ない、2011年7月5日に救済命令が出されました。しかしJALは命令を履行しないまま、命令取り消しを求めて東京地裁へ提訴し、そのためJFUとCCUは参加人となった裁判でした。
3 地裁判決の特徴
判決は、本件発言について、組合員の整理解雇を阻止するための組合活動における争議権投票を管財人がウソをついて恫喝したことであると認めました。また経営判断よりも重視しなければならない労働基本権があることも明らかにしました。
(1) 発言の不当労働行為性
管財人らの発言は、労働組合の運営である争議権の確立に対して抑制を加える行為に他ならず、出資を撤回する趣旨の発言は、支配介入行為であるとされました。
(2) 情報の内容の正確性
管財人らは、「争議権を確立すれば、JALの事業が毀損する」と主張していました。判決は、争議権を確立しても行使が回避されることは通常ありえるし、管財人らによる調整も可能であるとしました。さらに「裁判所が更生計画案を認可しない可能性がある」との管財人らの主張には、発言した管財人の憶測に過ぎないとしました。
ストライキによる欠航便の検証ができないまま、管財人らは出資期日が迫っていたからと経営判断の合理性を主張しました。判決は、検証ができないのであれば、労働基本権を尊重し伝えてはならず、これを経営判断の名のもとに正当化することはできないとしました。
(3) 情報提供の時期と方法
発言の時期は一般投票を行なっている最中であり、組合の利益を害する時期と言え、また事務的折衝の場に限定したとしても、同じ内容が直後に従業員に伝達されていたこと、そして争議権確立でただちに運航は停止することはなかったのであるから、情報提供義務として適法でないとされました。
4 おわりに
本件地裁判決は、2010年12月31日にJALが行った165名の整理解雇事件で東京地裁、高裁が解雇有効と判断したことに影響を及ぼすものです。つまり整理解雇訴訟において、管財人らの発言は手続きの相当性を欠いているという組合側の主張に対して、判決の前提にある「管財人は絶対であり、間違いを犯すはずはない」ということを崩すものと言えるからです。弁護士である管財人が違法行為をしたことは重大な問題であり、弁護士としての倫理が問われなければなりません。
JALは2014年9月9日に控訴方針をJFUとCCUに伝えてきました。そのなかで、不当解雇を撤回する考えも協議の場を設ける意思もない、加えて謝罪もしない、と明らかにしたのです。