民主法律時報

違憲判決――公務員災害遺族補償給付の男女格差訴訟

弁護士 下 川 和 男

1 はじめに
 平成25年11月25日午後1時15分、大阪地裁809号法廷において、公務災害遺族補償給付の男女格差訴訟で、憲法 条1項違反を理由とする取消判決があったので、簡単に報告する。

2 何が問題となっているか
 地公災法32条1項本文は、遺族補償年金の受給権者として「配偶者」と定めている。しかし同項ただし書において、受給権者が妻である場合(夫が死亡した場合)には特段の制限はないが、夫が受給権者となった場合(妻が死亡した場合)には、年齢制限を設けている(ただし書では60歳以上、附則において当分の間55歳以上としている)。
明らかな、男女の差別的取扱を行っている。
 同様の差別的取扱は、労災の遺族補償年金のほか、通常の社会保障年金の制度にも存在している。

3 事実経過
 原告の妻は、大阪府下の中学校の社会科教員として勤務していたが、平成10年10月18日、自殺をした。その当時、原告は51歳であった。
 原告は苦労の末に、妻の死亡が公務上の災害であることが認められた。
そして、原告は、地方公務員災害補償基金大阪府支部長に対して、遺族補償年金などの支給請求を行った。同支部長は、当然のように不支給決定をした。支部審査会も同様であった。原告は、地方公務員災害補償基金に再審査請求を行う一方、審査会の結論をまたずに、大阪地裁に遺族補償年金の受給について、夫のみに年齢制限があるのは性別による差別を禁止した日本国憲法第 条1項に違反して無効であり、不支給決定は取り消されるべきだとして、平成23年10月29日、本件訴訟を提起した。

4 判決内容
 ① 地方公務員の災害補償制度は、一種の損害賠償制度であり、純然たる社会保障制度とは一線を画するものである。そのような性質を有する遺族補償年金制度につき具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法府の合理的な裁量に委ねられており、本件差別的取扱が、立法府に与えられた裁量権を考慮しても、そのような差別的取扱をすることに合理的根拠が認められない場合には、当該差別的取扱は、合理的な理由のない差別として憲法14条1項に違反する。
 と判示する。その上で、
 ② 地公災法の立法当時、遺族補償年金の受給権者の範囲を画するに当たって採用された本件区別は、女性が男性と同様に就業することが相当困難であるため一般的な家庭モデルが専業主婦世帯であった立法当時には、一定の合理性を有していたといえるものの、女性の社会進出が進み、男性と比べれば依然不利な状況にあるとはいうものの、相応の就業の機会を得ることができるようになった結果、専業主婦世帯の数と共働き世帯の数が逆転し、共働き世帯が一般的な家庭モデルとなっている今日においては、配偶者の性別において受給権の有無を分けるような差別的取扱はもはや立法目的との間に合理的関連性を有しないというべきであり、原告のその余の主張について判断するまでもなく、遺族補償年金の第一順位の受給権者である配偶者のうち、夫についてのみ60歳以上(当分の間55歳以上)との本件年齢要件を定める地公災法32条1項1号ただし書及び同法附則7条の2第2項の規定は、憲法14条1項に違反する不合理な差別的取扱いとして違憲・無効であるといわざるを得ない。そうすると、地公災法32条1項ただし書1号及び同法附則7条の2第2項を根拠としてなされた、原告に対する遺族補償年金の不支給処分は、違法な処分であるから取り消すべきであり、原告が遺族補償年金の受給権者に該当しないとしてなされた、原告に対する遺族特別支給金、遺族特別援護金及び遺族特別給付金の各不支給処分も、いずれも違法なものとして取消しを免れない。
 として遺族補償年金不支給決定を取り消した。

4 控訴審へ
 判決は、地公災法制定後の社会情勢の変化について、国民の意識、専業主婦世帯から共働き世帯へと変化していることなど提出された証拠から詳細かつ具体的に認定を行っており、現時点においては、夫のみに年齢制限を設ける現行規定には、合理的な理由はないとして憲法14条1項に違反するとして無効であることを高らかに宣言した。大きく評価したい。
 国側は控訴した。次は、大阪高裁である。
なお、弁護団は、当職の外、松丸正弁護士、成見暁子弁護士。そして大阪市立大学木下秀雄教授、早稲田大学西原博史教授にご協力頂いた。

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