安倍内閣は、①ジョブ型(限定)正社員制度や金銭解決制度の導入などによる解雇規制の緩和、②いわゆるホワイトカラー・エグゼンプションの導入、③労働者派遣法の抜本的な規制緩和、④労働契約法18条の適用除外を容認する有期労働規制の緩和など、全面的な労働法の規制緩和を矢継ぎ早に推し進めようとしている。
①は、職種、労働時間、勤務地を限定したジョブ型(限定)正社員を導入することによって、ジョブ型(限定)正社員については解雇規制を緩和するところに狙いがある。それは、解雇しやすい労働者を創りだすだけでなく、無限定正社員とされた労働者に対してさらなる過酷で長時間の労働を強いることを容認することになりかねない。また、均等待遇原則が存在していない現状のもとでは、ジョブ型(限定)正社員の賃金を引き下げ、総額人件費を抑制するための方便とされることになる。金銭解決制度は、裁判所によって無効を宣言された違法解雇であるにもかかわらず、金さえ積めば職場から放逐できる状況を生みだし、違法行為を助長することになる。
②は、「多様で柔軟な働き方を実現するため」などと称するが、時間外労働に対する割増賃金の支払いを免れさせるだけのことであって労働者には何のメリットもない。規制改革会議は、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入を労使協定に委ねることを構想しているが、現在の異常な長時間労働が労働者代表が合意した三六協定にもとづいて許容されてきた現実をみるならば、労使協定が長時間労働の歯止めとなることは期待できない。しかも、時間外手当の支払いを要しないとなれば、使用者は時間外労働の実情さえ把握しなくなり、過労死・過労自殺を増大させることは必至である。ホワイトカラー・エグゼンプションの導入は直ちに断念し、現在の異常な長時間労働を是正するために、適正な労働時間管理の徹底と割増賃金制度の強化をすべきである。
③は、政令指定業務と自由化業務の区分を廃止し、派遣元に無期契約で雇用される労働者については派遣期間を無制限に、有期契約で雇用される労働者についても派遣先が過半数労働者の代表者の意見聴取さえすれば、一応は上限とされる3年を超えて派遣の継続的受け入れを可能にするという内容での労働者派遣法の抜本的な改正が予定されている。
このような法改正がなされると、企業はあらゆる業務について派遣を永続的に利用できることになる。間接雇用は例外であるとの労働法の基本原則は大きく損なわれ、不安定かつ劣悪な働き方である派遣労働が蔓延し、社会全体の格差と貧困をより一層深刻化させることになるであろう。
④は、2013年4月1日に施行されたばかりの改正労働契約法18条(5年無期転換)に適用除外を設けることで改正法を骨抜きにし、不安定雇用を温存しようとするものである。
安倍内閣は日本を「世界で一番ビジネスがしやすい国」にするためにこれら労働規制緩和を進めようとしている。しかし、世界各国が労働法の規制緩和を競うようになれば、経済がグローバル化した現在、労働者の権利と労働条件は国際的規模で際限なく底辺に向かって引き下げられていくだけである。そもそも経済活動は、社会を豊かにし人々の暮らしを幸せにすることを究極の目的とするべきである。労働者の生活を犠牲にし、社会に格差と貧困を蔓延させて経済成長を実現しようとすることは本末転倒と言わざるを得ない。
憲法は全ての国民に人間らしく生きる権利を保障している。その保障を現実化するためにある労働法は、使用者の経済活動を規制することを本質的特徴とする。使用者の経済活動を自由にするために労働法規制を緩和することは、労働法が人間の尊厳と労働権を保障した趣旨と、労働法の本質とに真っ向から反する暴挙と言わなければならない。
わたしたちは、安倍内閣の全面的な労働法規制緩和を決して許さず、働きがいのある人間らしい仕事の在り方(ディーセント・ワーク)の実現を目指して奮闘する決意である。
2014年2月8日
民主法律協会 2014年権利討論集会参加者一同