派遣労働研究会・弁護士 南 部 秀一郎
6月15日に日本評論社より和田肇・脇田滋・矢野昌浩編著「労働者派遣と法」(日本評論社)が出版されましたので、ご紹介します。
本書ではまず、第1章で労働者派遣法制定に至る経緯と改正の過程が解説されています。同章第3節では、最新の2012年改正についてまとまった解説がされており、大変参考になります。特に、本改正の目玉である派遣法40条の6の「使用者側の労働契約申し込みみなし」規定について、その根拠を使用者が常用雇用において、自らの危険を負担することなく「使用すること」すなわち「間接雇用の禁止」においているとの解説は簡明でわかりやすいものです。2012年改正については、立法担当者の断片的な解説程度しかない状況ですので、実際に改正法の積極的利用を考える上で、研究者からの解説は貴重であると思います。
そして、続く第2章では労働者派遣法の理論課題として、派遣法の理論上の問題点が、そして第3章では労働者派遣裁判例の分析がされています。両章の中で特に挙げるべきは、松下PDP事件最高裁判決に集約する違法派遣・偽装請負事件について、研究者と弁護士が共同して、多くの判例を集積し、分厚い批判的解説を行っている点です。本書のはしがきに、本書刊行の経緯について書かれていますが、本書は編著者の一人であり、当民主法律協会の脇田滋教授が違法派遣を中心とする派遣問題について、ホームページを作成し、派遣法の解説や労働問題の相談を行っていたところに、弁護士・研究者がネットワークを形成し、会議・研究会を行うところに、本書の出版に至る端緒があります。私は、弁護士2年目で、裁判当時はロースクールの一学生であったために、詳細を知りませんが、松下PDPをはじめとする違法派遣の裁判においては、その主張・立証の組み立てにおいて、弁護士と研究者そして当事者との協働関係がなされていたと聞いています。本書はそういった協働関係から生み出されたもので、特にその協働が広く行われた違法派遣事件の解説に、その成果があらわれていると思います。違法派遣に関して主に判例解説の形でされた多くの論文について、本書ではリファレンスがされており、様々な学説がまとめられています。本年になって、山口地裁でマツダ派遣切り裁判に勝訴判決が出ましたが(山口地裁 平成25・3・13判決)、今後違法派遣事件を争っていくにあたって必読であると思われます。
続いて第4章では、諸外国の労働者派遣法として、ドイツ、フランス、韓国の3カ国の派遣法についての解説がなされています。これらの国々は、例えばドイツの派遣法が日本の派遣法のお手本になっている、韓国法が正規と非正規の格差を抱えるなど日本との労働関係上の共通点をもつ、あるいは、フランス・ドイツなどのように外国人労働者の流入という、これからの日本の派遣労働の課題となるべき事柄に対処しているなど、参考とすべきものであると思われます。
最後に編著者の和田肇教授による総括的検討がされ、派遣法に横たわる(はずの)直接雇用の原則(と例外としての派遣)、そして、違法派遣訴訟などで直面する公法私法二分論、取締法規違反の私法上の効力といった問題がまとめられています。資料として、派遣研によせられた法律相談の概要などもまとめられています。
本書の画期的な点は、何をおいても、労働者派遣を含む「非正規労働」の分野に取り組む一線の労働法研究者と、実際に多数の労働事件の労働者側弁護を行っている弁護士とが、それぞれの成果を持ち寄って作った本であるという点です。まさに研究と実践の融合です。
本書には派遣研メンバーだけでなく民主法律協会の多くの研究者、弁護士会員が執筆しています。派遣法研究の現状の到達点を示す決定版の一冊ですので、皆様是非入手され、お読みください。
※日本評論社 定価5000円+税 民法協で少しお安くお求めいただけます。