弁護士 遠 地 靖 志
1 本件は、羽曳野市立中央図書館で、平成14年4月から平成23年3月までの10年間、図書館司書として働いていた原告2人が、羽曳野市の「職員の退職手当に関する条例」(以下、「退職条例」という。)に基づき、退職手当を請求した事件です。
3月28日、大阪地裁堺支部第2民事部(大西嘉彦裁判長)において、原告らの請求を全面的に認め、市に退職手当の支払いを命じる勝訴判決が出されましたので、報告します。
2 原告らは、平成14年4月に、羽曳野市の嘱託員として1年間の期限付きで採用され、その後も1年毎に計9回契約の更新がなされ、平成23年3月まで、10年間連続して勤務し、同年3月31日付けで退職しました(なお、同市の嘱託員の雇用契約の更新は、9回までしか認められていません。)。
同市の退職条例では、正規職員でなくとも、「職員について定められている勤務時間以上勤務した日が18日以上ある月が引き続いて12月を超えるに至ったもので、その超えるに至った日以後引き続き当該勤務時間により勤務することとされているもの」(退職手当条例2条2項)についても退職手当の支給対象となります。
原告らの勤務は、正規職員と同様に週5日、1日7時間45分であり、職務内容も管理業務を除いて正規職員と同様でした。また、雇用契約は1年毎に更新されるものの、実態としては継続して雇用されており、勤続年数に応じて昇給もあり、有給休暇も取得できました。さらに、図書館長の指揮命令にも服しており、秘密保持義務、職務専念義務、信用失墜行為の禁止等の制約が課され、任命権者は勤務成績等によって原告らを免職することもできるなど、服務規律等も正規職員と同じでした。
しかし、羽曳野市は、①原告ら嘱託員は地方公務員法第3条3項3号の特別職に該当するから退職手当の支給はできない、また、②原告らは1年間の期間を定めて雇用しているのだから、「引き続いて12月を超えるに至った」という要件に該当しない、などとして、原告らを含む嘱託員に対して退職手当を支給していませんでした。
主な争点は、①原告ら嘱託員が地公法3条3項3号の特別職か、一般職か、②退職条例の「引き続いて12月を超えるに至った」の要件は、法的な雇用契約期間で判断するのか、事実上の雇用継続関係で判断するのか、の二点でした(なお、原告らは、仮に原告ら嘱託員が特別職に該当するとしても、退職条例2条2項の要件を満たす限り、退職手当は支給されるべきと主張していました。)。
3 (1) 判決では、退職条例が地公法24条3項、6項に基づいて制定された経緯から一般職の地方公務員に適用されることが前提となっていると述べて、まず、原告らが一般職か特別職のいずれに該当するかについて判断しました。
この点について、判決は、地公法3条3項の特別職に当たるか否かは、任命権者の意思を考慮しつつも、職務の内容・性質、勤務態様や勤務条件等を総合的に考慮して判断すべきであり、その具体的な判断基準として職務遂行に際して指揮命令関係があるか否か、専務職であるか否か、及び成績主義の適用があるか否か等を考慮すべきとしました。そして、原告らは正規職員らとほぼ同等の勤務環境において、同様の勤務に服しており、職階制や成績主義等の地公法の定める他の一般的規定も適用されるとして、一般職に当たると認定しました(なお、羽曳野市の退職条例は旧自治省が昭和28年に示した「職員の退職手当に関する条例(案)」をもとにして制定されていますが、旧自治省が全国市町村職員退職手当組合連合会会長に宛てた給与課長回答(昭和41年4月1日自治給第32号)では、同条例(案)は「地方公共団体の特別職の職員で常勤のものにも適用することを予想して定められたもの」としています。この解釈によれば、一般職か特別職かで違いはありません。)。
(2) その上で、原告らが、退職条例が定める「引き続いて12月を超えるに至った」との要件を満たすかについて判断しました。
この点については、退職条例と同様の規定をもつ国家公務員退職手当法及び同施行令が、「雇用関係が事実上継続していると認められる場合」か否かによって判断していること(総務大臣通達・昭和60年4月30日総人第260号)、同法及び同施行令の改正の経緯をみても雇用関係が事実上継続している場合を指すと解されること、平成22年10月に導入された期間業務職員(任用期間は12月を超えないとされている)も再任用により雇用関係が事実上12月を超えた場合に退職手当の支給対象となることなどから、退職条例の「引き続いて12月を超えるに至った」とは事実上の雇用関係の継続の有無により判断するのが相当であると結論づけて、原告勝訴の判決を言い渡しました。
4 本件は、そもそも、正規職員と同じように働いているのに、なぜ嘱託員だけ雇用期間が制限され、その上退職手当でも差別されるのか、という疑問から始まりました。原告らが勤務していた羽曳野市立中央図書館はその名のとおり、羽曳野市の図書館行政の中心的な役割を担ってきており、開館当初より正規職員2割、嘱託員8割という職員配置のもと運営されてきました。嘱託員なくては業務が到底立ちゆかないという状況であり、嘱託員の果たしてきた役割は非常に大きいものがあります。
昨今、羽曳野市に限らず多くの地方公共団体で非正規雇用が拡大しており、「官製ワーキングプア」と称されるように、正規職員に比べて低賃金かつ不安定な労働条件のもとに置かれています。羽曳野市の退職条例と同様の規定の退職条例を制定している自治体は全国に多数あります。本判決は、正規職員と変わらない勤務実態の非正規職員については、正規職員と同じ扱いにすべきことを認めた判決であり、全国的にも大きな意義のある判決です。
なお、羽曳野市は、4月2日付けで控訴しました。引き続き、本件訴訟へのご支援、ご協力をよろしくお願いします。
(弁護団は、岩嶋修治、高橋徹、遠地靖志)