橋下徹市長の指示を受け、大阪市服務規律刷新プロジェクトチームは、「勤務中に入れ墨が市民の方の目に触れることになれば、市民の方が不安感や威圧感を持ち、ひいては本市の信用を失墜させる」ことから、「実態を把握した上で、人事配置上の配慮を行う必要がある」として、2012年5月1日から全職員に対し、記名式により入れ墨に関する調査を行った。同調査では、手足や頭部など「業務中に市民の目に触れる可能性がある部分」の入れ墨の有無について回答を義務付け、その他の部分は任意で回答するように求めた。
しかし、そもそも、このような調査をすべき必要性は基本的にない。入れ墨がないことは職員としての採用要件とはなっていないし、入れ墨は地方公務員法に違反するものではなく懲戒事由・罷免事由にも該当しない。
仮に、市民から入れ墨が目につくことを避けなければ業務に支障をきたすのであれば、実際に入れ墨が目につく当該職員を個別に確認し、必要とあれば配置の変更等をすれば済むことであって、全職員に一律回答を義務付ける必要性・合理性は存しない。
市民の目に触れる可能性のない部分については回答を強制してはいないが、その場合、調査の必要性も合理性も欠いている。
橋下市長は、入れ墨があると答えた職員の配置転換や、調査票を提出しない職員には昇進させない上、戒告・減給等の懲戒処分等を示唆している。しかしながら、元々必要性・合理性に欠ける本件調査に回答しなかったからといって、業務への支障の有無・程度を問わず一律に配置転換にすることは人事権の濫用であり、懲戒処分を科すことは懲戒権の濫用といわざるを得ない。
大阪市は、本年2月にも、全職員に対し、思想良心の自由・労働組合の団結権等を侵害するアンケート調査を義務付け、日本弁護士連合会をはじめとして、社会的な批判を受け調査票を破棄せざるを得なかった。同調査に要した費用の返還を求める訴訟も提起されている。にもかかわらず、再び本件のような非常識的なアンケートを繰り返しており、反省の態度が一切見られない。このような大阪市の施策の真意は、職員を萎縮させ、権力的な統制を図ることにあると考えざるをえないが、民主主義社会に対する背徳行為であり、決して許されることではない。
よって、本件調査により取得したデータを直ちに廃棄すること、調査に回答しなかった者に対する不利益取扱いをしないこと、懲戒処分をしないことを表明し、職員を過度に委縮させるこのような権力的なアンケート調査を今後繰り返すことのないよう、強く求める。
2012年6月18日
民 主 法 律 協 会
会 長 萬井 隆令