大阪市は、7月の市議会にも、大阪市当局と労働組合等との交渉などの労使関係に関する条例案を提出するとして、その概要を職員団体等に提示した。しかし、その内容は、憲法の保障する労働基本権を侵害し、地方公務員法に反するものというべきである。
第一に、条例案は、管理運営事項については意見交換も含めて禁止し、人事異動など具体的な任命権の行使に関する事項については、すでに決定した内容の説明さえしないと定める。しかし、管理運営事項であっても、勤務条件などに密接に関連する場合は団体交渉の対象になるものであるし(地方公務員法55条1項)、管理運営事項であるという理由のみで意見交換までも禁止することは違法である。また、一定の関連性を有する事項については意見交換をしたり、当局に説明を要求することは、交渉を進展させる上では必要不可欠である。まして、人事異動などは、職員の勤務条件そのもの、ないしそれに関わる事情であって、その説明さえしないというのは団体交渉の否定にほかならない。
第二に、条例案は、労使関係の適正化という名目によって、任命権者に、活動を検証し、労働組合等に違法な組合活動を抑止する措置を求める権限を付与したり、人事委員会に、職員団体に対して、収支報告書の提出を要求したり、地方公務員法52条1項に定められている「職員の勤務条件の維持改善を図る」という目的に合致していないと判断した場合に、職員団体の登録の取消等をすることができる権限を付与することとされている。また、条例案の定めに違反した職員に対して懲戒処分を行うともされている。このような使用者による組合の自主的な運営や活動への介入は、労働組合法1条にいう労使対等原則に真っ向から反するもので、憲法28条の労働基本権を蹂躙するというべきである。また、地方公務員法53条1項において職員団体の登録に必要な申請書の添付書類として要求されるのは規約のみであるし、人事委員会が職員団体の登録を取り消すことができるのは同条6項所定の事由がある場合に限られる。条例案は、地方公務員法にない権限を人事委員会に付与するものであり、明らかに違法である。
第三に、条例案は、労働組合等に対する便宜供与は、健全な労使関係が確保されるまで行わないとする。しかし、「健全な労使関係」とはきわめて主観的であいまいな概念であって、使用者たる当局の恣意を許すものであり、結局は、当局のいいなりにならない限り、便宜供与を再開しないというに等しい。また、便宜供与を合理的な理由なく一方的に撤回・中止することは不当労働行為であって、条例で定められたからといって、正当化される理由にはなり得ない。
以上のとおり、条例案は、憲法や地方公務員法に明白に反するものであり、当協会は、大阪市に対し、ただちに条例案の撤回をするよう強く求める。
2012年6月1日
民 主 法 律 協 会
会 長 萬井 隆令