2012年3月23日、政府は「労働契約法の一部を改正する法律案」(以下「改正案」という。)を通常国会に提出した。
改正案は、恒常的に仕事があるにもかかわらず、雇用調整の際の便宜と人件費節減目的のために有期契約労働が野放図に利用されている現状を、規制を通じて改め、雇用の安定と正規労働者との均等待遇を実現してほしいという有期契約労働者の願いに背を向けるだけでなく、現状の正規労働者と非正規労働者との格差を固定しかねない内容である。法改正により、それ以前よりかえって有期契約労働者の立場が不利になるようなことがあってはならない。
法案審議の過程で改めて有期契約労働者保護の視点に立った検討を行い、その方向で法案を修正することを強く求める。
第1 入口規制が導入されなかったことは極めて遺憾である
改正案の最大の問題点は、有期労働契約締結には合理的理由が必要であるといういわゆる入口規制を設けなかったことである。
労働者が人間らしい働き方をするためには、恒常的な業務に関して締結される労働契約は期間の定めのないものとする常用雇用を原則とし、有期労働契約は合理的理由がある場合にのみ例外的に認められるものとされなければならない。
第2 反復・継続の上限5年は長すぎる
改正案では、有期労働契約が継続して5年を超えた場合には無期労働契約に転換させる制度を新設した。しかし、「平成23年有期労働契約に関する実態調査」によれば、この規定で救済される労働者は4割にも満たない。日本に先行して有期労働契約規制を行った韓国の2年と比較しても長期に過ぎるものである。有期契約労働者保護の観点からは、その上限は可及的に短いものでなければならない。
また、労働者からの申込み要件は撤廃し、期間の経過によって自動的に無期契約に転換するものとすべきである。
第3 6か月のクーリング期間は撤廃すべきである
改正案では、有期労働契約満了日とその次の有期労働契約の初日との間に空白期間(いわゆるクーリング期間)が原則6か月あるときは、クーリング期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しないとし、期間経過後の有期契約の再締結を認めた。
しかし、クーリング期間の設定は、期間満了直前に一時的に労働者を個人請負にするとか、系列会社に転籍させた上で出向させて勤務させるなど、脱法行為を誘発しかねない。
6か月のクーリング期間は撤廃すべきである。
第4 反復・継続の上限期間間際での雇止め回避策を設けるべきである
改正案では、期間満了間際、無期労働契約に移行する直前に雇止めをする危険性、いわゆる出口規制の副作用の危険性を回避するための策について何ら規定していない。労政審も「利用可能期間満了前の雇止め」を懸念しており、その回避策が法案に盛り込まれなければならない。
第5 無期契約に転換する場合、同一労働同一条件の原則を遵守すべきである
改正案は、無期労働契約に転換した後の労働条件は契約期間を除いて原則として有期労働契約の時の労働条件と同一とすると定める。また、契約期間以外の労働条件については別段の定めがある場合、その定めに従うとする。
しかし、それでは、無期契約に転換しても、正規労働者との格差は何ら是正されず、格差の固定化につながりかねないだけでなく、転換後の労働条件を転換前より不利益に変更することさえ起こりかねない。最低限、労働契約法10条に準じ、合理性がない場合は就業規則によって転換後の労働条件を低く定めることは認められない旨定めるべきである。
わが国は、同一職務に従事していれば、同一の処遇とすべきであるとの原則を規定したILO100号条約を批准している。したがって、無期契約への移行を機に、同原則に従い、同一職務に従事している者は同一の処遇を受けることとすべきである。
第6 「期間の定めがあること」のみによる労働条件の相違に限定すべきではない
改正案は、不合理な労働条件の差別の禁止の要件として、「期間の定めがあることにより」無期労働契約者の労働条件と相違する場合、としている。
しかし、労働条件の相違は、期間の定めの有無だけではなく、それ以外の理由も併せた複合的なものであるのが通常である。改正案では、契約期間以外にも労務管理上の差を付けることで規制を潜脱することができ、不適切である。
第7 差別の不合理性についてその立証責任を労働者側に負わせるべきではない
改正案の文言からは、差別については労働者がその不合理性について立証責任を負担させられることになる。
しかし、差別的待遇を行うのは使用者側である以上、労務管理を行う使用者側が差別的待遇に合理性があるというのであれば、それについては使用者に立証させるのが公平である。
第8 不合理な労働条件の差別が行われた場合の効果について明記すべきである
改正案は、差別的待遇を禁止するが、違反した場合どのような法的効果が生じるかについては何ら規定していない。差別的待遇が合理的であることを使用者側が立証できない場合には、同一労働同一処遇の原則により、労働者は無期労働者と同一の処遇を要求することができるのであり、それを明記すべきである。
おわりに
我々は、国会での審議を通じて今回の改正案が真に労働者保護につながるよう改正されるべく、今後も運動を続けることを改めて宣言する。
2012年4月9日
民 主 法 律 協 会
会 長 萬井 隆令