弁護士 喜 田 崇 之
- はじめに
大阪市バスの運転手の雇止事件につき、平成24年2月23日、大阪地方裁判所にて勝訴判決を得ましたので、ご報告します。弁護団は、当職の他に、出田健一弁護士、横山精一弁護士。組合は自交総連。 - 事案の概要
被告は、大阪市交通局から委託を受けて、大阪市バスの運行をしている大阪運輸振興株式会社です。原告は、嘱託職員として平成15年4月1日に雇用され、1年更新を繰り返していました。
被告は、年に数回程度、抜き打ちで従業員の添乗調査を行っていましたが、添乗調査の結果、原告の車内マイクアナウンスの活用は不十分であると判定されていました。そこで、被告は、平成20年度及び平成21年度の契約更新の際に、もっと有効な車内マイクアナウンスをするよう原告に注意指導をしましたが、その後成績の向上が見られないと判断し、平成22年3月末をもって原告を雇止めにしました。
しかしながら、原告は、6年間の勤務の中で、車内事故を起こしたことが一度もなく、安全運転の面での指導は過去に一度もありませんでした(無事故表彰を受けた実績もあります。)。また、原告は、状況に応じて必要な車内アナウンスをしており、車内アナウンスについての苦情等もありませんでした。さらに、添乗調査の成績も、わずかではありますが上昇傾向にありました。
このような事実関係の下、原告に対する雇止めの有効性を正面から問いました。 - 裁判所の判断
(1)仮処分の判断
原告は、賃金支払の仮処分を申立てたところ、裁判所は、「バスの運転手にとって最も重要なのは安全に運転する技術を有していることであるところ」、原告には安全運転についてはほぼ問題のない評価を受けていると認定し、会社に対し仮払いを命じました。ただし、保全の必要性については一部認めず、仮払い金額は若干限定されました。
(2)本訴の判断
判決は、「多数の従業員を雇用する被告において、相対的に勤務成績が低位にあり続ける従業員に対し、そのことを理由に解雇することが当然に合理性及び社会的相当性を認められるものではなく、職務能力の欠如が業務遂行に与える支障の程度や、改善の余地の有無、被告からの指導等の在り方等も踏まえた総合検討が必要である。」と述べ、単に成績が低いだけで雇止めにしようとした被告の態度を非難するかのように一般論を展開しました。その上で、原告の安全運転の評価が高いことをしっかりと認定し、アナウンスが不十分な点が業務遂行に多大な支障を与えると評価することはできないと判断しました。
また、「問題点の指摘と改善の指導を繰り返して自主的な技能習得を期待するのみでは、成績の向上が見られないのも無理はなく、むしろ、車内放送や乗客とのコミュニケーションに特化した実地研修等の適切な指導措置を取るべきであり、それによる原告の職務能力向上を期待する余地もあったと認めることができる。」と述べ、被告が単に問題点を口頭で指摘するに留まった点についても、不十分な対応であると判断しました。 - 判決の評価
相対的に成績が低いということだけでは解雇・雇止めの合理的な理由とならないことについては、これまでもセガエンタープライゼズ事件東京地裁決定(平成11年10月15日)等がありましたが、同様に、かかる一般論を明確に展開して雇止めの無効を判断したことは率直に評価できます。
また、近時、橋下大阪市長が、職員の人事評価を5段階の相対評価に分け、2年連続で最低の評価を受けた職員が免職の対象となることを盛り込んだ職員基本条例案を議会に提出していますが、このような条例案が提出されるというタイミングで、大阪市バス職員の雇止事件において、上記のような一般論が示されたことは、条例案に警笛を鳴らすものとして非常に重要であると考えます。 - 今後
本判決は、被告が控訴したため確定とはなりませんでしたが、高等裁判所においても、地裁判決が維持されるように奮闘する次第です。