民主法律時報

働き方ネット大阪第15回つどい 就職難とブラック企業「まともな働き方」を考える

新聞労連近畿地連 伊 藤  明 弘

 民法協などが中心となって組織する「働き方ネット大阪」は12月15日、大阪市中央区の府立労働センターで「就職難とブラック企業『まともな働き方』を考える」と題した15回目のつどいを開催、約90人が参加した。
 開会挨拶に立った同ネット事務局長の岩城譲弁護士は、2006年にホワイトカラー・エグゼンプションに反対する運動として同ネットを立ち上げた経緯に触れつつ、「ブラック企業の見分け方の集会には、会場に入りきらないほどの参加者があった。その続編として今回のつどいを企画した。『まともな働き方』の実現に向けた充実した議論をしたい」と挨拶した。

 講演の1人目は、NPO法人POSSE事務局長の川村遼平さん。「ブラック企業の傾向と対策」と題して講演した。氏は『ブラック企業に負けない』(旬報社)を9月に出版している。
 川村氏は、最近の労働相談の傾向として「まるで判で押したように、大卒入社1~2年目でうつになり、働けなくなる」と紹介。そしてブラック企業を、これまでのPOSSEでの相談事例の分析から①ウェザーニューズ事件に見られるような「選別排除型」 ②就活生の違法インターンなどの「消耗使用型」 ③医療現場に顕著な「秩序崩壊型」に類型し、それぞれの問題点を指摘した。
 その上で「ブラック企業に入社してしまった若者が、法律を活用するまでにはいくつものハードルがある」とし、POSSEの活動はこれらの弁護士や労働組合にたどり着いていない人たちと、法律家・労組の接点を作ることにある、とした。
 さらに行政の対応のまずさも指摘。「時間外手当の不払いを労基署に相談に行くと『まず自分で請求しろ』といわれる」と事例を紹介、逆らったら懲戒解雇という現場の実態への対応が不十分だと指摘した。
 こうした状況下で経営者は「うつ病にしたら勝ち」と考えている。そんなブラック企業にどう立ち向かうべきか、という点について川村氏は、たとえば安全配慮義務違反で会社にきちんと責任を取らせる取り組みの事例を共有すべき、と強調した。また、対策の方向性について労基法の機能強化というエンフォースメントが求められる一方で、根本的にはやはり働くもののエンパワーメントが必要だとした。

 続いて、働き方ネット大阪の会長でもあり、『就職とは何か―〈まともな働き方〉の条件』(岩波新書)を 11 月に出版した森岡孝二・関西大学教授が、「就職に求められる力と働き方」と題し講演した。
 氏は最初に、「今ほど学生が弱い立場に置かれている時代はない」と指摘。親方-子分型雇用と周旋屋の介在という、まさに19世紀の雇用形態が広がっており、その影響が学生に顕れているとした。
 こうした状況を加速させている要因として、きわめて日本的な「定期採用」の慣行にも触れ、そもそも定期採用制度自体が就職活動の早期化を内包していると指摘した。そして、その極端な例として大学1年生で採用を決め、卒業まで職場でアルバイトをさせるユニクロの例を紹介した。
 さらに、企業は何を重視して学生を選考しているのかを分析。大学での専門分野の研究などはほとんど評価されず、規律性、順応性、忍耐力で選んでいるとし、大学新卒者の強みは「6・3・3・4制の教育制度に16年間も耐えた力」だと断じた。

 続く質疑応答では、大学生活4年間の意義を問われ、森岡氏は「今の学生は受動的。もっと自分で時間を作って運動にかかわるなどして欲しい」など学生へのアドバイスも。
 また、「いったい日本の何%がブラック企業なのか」との質問に対し川村氏は、「法律違反をしている企業、というレベルで判断するならば100%」とし、悪質なブラック企業の企業名公表などの必要性に触れながらも「問題は公表されていることをどう活用できるかだ」と、その先の問題点も指摘した。
 その後、労組の活動家、弁護士などがブラック企業との闘いを報告。これらの議論を踏まえ、最後に森岡氏が「重要なことは、正社員で過労死するまで猛烈に働くか、非正社員でワーキングプアから抜け出せないか、という究極の選択となってしまっている現状をどう打破するかだ。解決にはワークシェアリングの実現しかない。サービス残業をなくし、雇用を創出すれば『トリプルウイン』が実現できるはず。それをする上で過労死防止法の制定が是非とも必要だ」と議論を結んだ。
 最後に、「経営者の利益第一主義に対して批判を高め、就職難の解消とまともな働き方の実現のために、学生、労働者、市民が手を取り合って、声を上げていこう」とするアピールを参加者全員の大きな拍手で採択し、つどいを閉じた。

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