弁護士 有 村 とく子
1 世界の民主化に学ぶシリーズ第1弾としての学習会
国際交流委員会では、2011年11月22日、世界の民主化運動に学ぶ企画の第1弾として、康宗憲さんを講師にお招きし、韓国における民主化運動の成果と未来への課題についてお話を聴く集いを持ちました。インターネットのUstreamを通じて実況中継もされました。
2 軍事独裁政権下で大学生活を送り、国家保安法違反で死刑判決を受ける
康宗憲さんは、1951年に生まれ、在日韓国人2世として、母国のソウル大学医学部在学中の1975年11月、国家保安法違反の容疑で拘束されました。1977年、最高裁で死刑判決が確定しましたが、1982年無期懲役に減刑となり、1988年に仮釈放され、翌年日本に帰還されました。死刑判決を受け、いつ執行されるかわからない状況で5年間、減刑された後も6年間、通算13年もの間、収監生活を送ってこられた方です。そのなかで持ちこたえられたのは、「この国には未来があると思えたから」とお聞きし、私は強い感銘を受けました。韓国には康さんのような方が厚い層をなして民主化運動を連綿と支えてこられたのだと思います。
3 民主化運動の根底にあるもの-抵抗の歴史とより良い社会を目指す共同体意識
韓国社会は、日本以上に厳しい格差社会で、サムソンをはじめとする5大財閥が富を集中させているそうです。韓国では、アメリカ政府の支援で1948年に誕生した李承晩(イ・スンマン)政権以降、全斗煥政権が1987年の光州民主化抗争で事実上退くまでのおよそ40年にわたる軍事独裁政権が続いていました。しかし、ファシズムの吹き荒れる中でも、根底に歴史的に形成された民衆の抵抗意識があり、また、「より良い社会、人間らしい世の中」を目指す青年労働者や学生が、命を捧げた仲間の死を決して無駄にしないで、弾圧に屈せず抵抗し続ける、それはものすごいエネルギーです。韓国では抗議の意味での自殺はあるが、基本的にテロはしない、ということも印象的でした。自分一人の安楽や幸せを追求しない、仲間を大切にすること、分裂せず、団結することによって、民主化は可能であるという康宗憲さんのメッセージを多くの人に広めたいと思います。
4 内なる「韓流」に目を向けたい
「韓流」は、日本では今やひとつの文化的な潮流として定着しつつあるけれど、自分たちの身近な在日韓国人が置かれた問題状況には目が行かない「韓流ブーム」に、康さんは物足りなさを感じるとおっしゃっていました。北朝鮮との関係も、テレビで報道されるのは拉致問題や食糧危機などがクローズアップされ、北朝鮮に対する不信感と敵意が煽られていて、和解や交流が実現するまでには道遠しの状況です。けれども、私たちは日本の視点だけからではなく、冷静で客観的な認識を持つべきではないかという指摘もされていました。これはとても大事なことだと感じました。むき出しの憎悪や排外主義は、我々から「つながり合う力」を失わせるだけなのだと思います。
物静かな語り口で心に沁みる貴重なお話にひきこまれ、あっという間に時間が過ぎました。皆さんも是非Ustream(http://www.ustream.tv/channel/minpokyo-kokusai)にアクセスしてごらんになってください。
韓国では、ソウル高等法院が今年10月12日、康宗憲氏に対する再審決定を下したそうです。「司法の民主化」でも、韓国は日本の先を行っていると思います。