決議・声明・意見書

声明

日本学術会議法案に反対する声明

政府は、2025年3月7日、現在の「日本学術会議」(以下、「会議」という。)を廃止して、国が設立する法人とすること等を内容とする「日本学術会議法案」(以下、「法案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。
会議は、科学政策に対する提言や世論の啓発をすることによって日本の行政・産業等に科学を反映・浸透させることを目的として、現行の日本学術会議法に基づき1949年に設立された機関であり、独立した学術的立場から、政府に対して科学的助言を行うなど重要な役割を果たしてきた。

そもそも会議は、日本の科学者が太平洋戦争に突き進む当時の政府に協力してきたことに対する反省から生まれた機関である。この点は、現行の日本学術会議法前文において「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命と」することを謳っている点に現れている。
かかる会議の出発点、設立の目的から、会議には学問の自由(憲法23条)のもと、政府から独立した自由な立場での活動が強く保障されており、このことが、時の政府に左右されない学術的立場から科学的提言をすること可能としてきた。

ところが、今般閣議決定された法案は、会議を新しく政府から切り離された「法人」とした上で(以下、「新法人」という。)、新法人に対して政府を含む外部からの介入を許容する仕組みを設けることによって、これまで会議に認められてきた強い独立性・自律性を損なわせるものとなっている。

特に問題視すべきは、新法人の会員の選任にあたり会員選考の方針や手続について意見を述べる「選定助言委員会」(法案26条、31条)や、新法人の中期的な活動計画や年度計画の作成、予算の作成、組織の管理運営などについて意見を述べる「運営助言委員会」(法案27条、36条)など、会員外の委員で構成される外部委員会を設置し、新法人の人事や運営に介入させようとしている点である。かかる仕組みは、これまで会議で採用されてきた「コ・オプテーション方式」(現会員が会員候補者を選ぶ方式)を損ない、会議が保障されてきた独立性・自律性を根本的に失わせるものである。

このように独立性・自律性を奪われた新法人が、会議がこれまで行ってきたような、外部から独立した立場から、科学的根拠に基づく重要な政策提言を行う役目を果たすことができるとは到底考えられない。

会議の性質を根本から変容させようとする動きは、2020年10月1日に当時の菅義偉内閣総理大臣が、会議が推薦した105名の会員候補者のうち6名について、何ら理由を説明することなく任命を拒否するという前代未聞の措置に端を発するものである。当会は、2020年10月7日付「菅首相による日本学術会議会員の任命拒否に断固抗議し、任命拒否を説明し直ちに撤回することを求める声明」において、菅首相による任命拒否は、政府方針に批判的態度をとる科学者を排除する目的で行われた強権的措置であり、会議の独立性・自律性を無視した違憲・違法なものであって、ただちに撤回すべきであることを表明した。しかし、政府は任命拒否の理由を何ら説明しないまま、6名の候補者に対する任命拒否を維持している。政府による違憲・違法の任命拒否問題について何ら解決がされないまま、会議の性質を根本から変えようとする動きを認めることはできない。

更に言えば、会員候補者の任命拒否と、法案によって会議の性質を変容させる動きは、戦争参加体制を押し進めようとする政府の動きと連動して、学術全体を軍事的に利用することを終局的な目的とするものであり、平和と民主主義の前進を目的として活動する当会としては、断じて容認することはできない。

よって、当会は、改めて政府に対し、6名の候補者に対する任命拒否について説明し、拒否の撤回を求めるとともに、会議の独立性・自立性を損なう法案に断固として反対し、廃案を求めるものである。

2025年4月17日
民主法律協会
会長 豊川 義明

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