弁護士 江藤 深
全徳島新聞労働組合(千里達彦委員長、組合員109名)は3月、徳島県労働委員会に、2件の不当労働行為(不誠実団交及び昇進差別)の救済を相次ぎ申し立てた。被申立人はいずれも一般社団法人徳島新聞社(社団)であり、申立ての背景事情には、社団が昨年4月に分社化を強行したこと、これに対し労組が毅然と対峙してきたことがある。救済を求める内容はまず、社団が労組との団体交渉において、不誠実な対応を繰り返したことが、労働組合法7条2号の団交拒否に当たるため、団交に誠実に応じること、そして謝罪と誓約文の手交(ポストノーティス)である。また2024年4月1日付の定期異動において、非組合員のみを昇進させ、昇進の要件を満たした組合員を一切昇進させなかったことが法7条3号の支配介入に当たるため、昇進していた場合の賃金との差額の支払い、そして同じくポストノーティスを求める。
事の発端は、2023年11月、社団がその編集部門を分社化し、2024年4月に業務を始める株式会社徳島新聞社(KK)に同部門の職員を出向させるという提案をしたことに遡る。案によると、以後はKKのみが新規採用を担う上、KKの賃金水準は社団の従業員の65%とするという衝撃的な内容であった。労組側は、社団とKKの賃金格差が不合理であり、若手職員の離職に拍車がかかるとして、ビラ配りや団体交渉をはじめ活発な分社化反対の活動を続けた。しかし社団は、労組が求めた経営資料を一向に開示しないばかりか、幹部が組合ニュースの記載に不当に修正を迫ったり、団交の時間を一方的に制限したりした挙句、2024年3月には団交を一方的に打ち切るという行為に出た。労組の活動は2024年3月14日、ストライキの実施という形で最初の高まりを迎えることになる。全徳島新聞労組がストに踏み切ったのは29年ぶりであり、会社の垣根を越え、同業他社、通信社、テレビで広く報じられた。
一連の経緯で、社団が労組及びその活動に対する嫌悪感を強めたことは想像に難くない。社団は2024年3月26日、編集局に所属する組合員に対し、新設したKKへの出向を命じる一方、4月1日付の定期異動において、前記のようにあからさまに違法な人事に及んだのである。ストと同様、今回の救済申立てについても、大きく報道された。社団は翌日の自社朝刊の紙面で、申立てを伝える記事を超えるスペースを割いて「本社が見解」なる見出しの文章を掲載した。見解の中では「不当労働行為は一切行っていません」と労組への対抗意識を鮮明にしており、労使対等の交渉を実現させるための闘いは労働委員会に場を移し、さらに続きそうだ。
(新聞労連、KKに新たに発足した労働組合「関西新聞合同ユニオン徳島新聞グループ支部」が共闘、申立代理人には西川大史弁護士、筆者が就く)。