弁護士 奥田 愼吾
2025年3月19日、マイグラント研究会のメンバー8名(弁護士5名、人権団体研究者、マスコミ関係者2名)で、神戸市にあるベトナム寺(和楽寺)を訪問しました。和楽寺は日本国内で10か所あるベトナム寺の1つで、2012年に神戸市長田区に建立されました。先代の住職が、ベトナム人らの寄付で住宅を購入し、お寺として改築されました。1階が交流のためのフロアで、2階が釈迦如来像など置かれた本堂です。現在、先代の住職の下で出家したティック・ドゥック・チーさんが住職を務めています。寺名の「和」は日本を、「楽」はベトナムを意味するものとして命名したということです。
お寺では、(1)ベトナム仏教の実践、(2)日本で生まれたベトナム難民などの2世や3世にベトナム文化を教えること、(3)ベトナム人留学生や技能実習生からの相談対応や支援、に取り組んでいるとのこと。(1)(2)の関係では、日曜日の勉強会などを開催しており、140人ほどが集まり、特に、新年(正月)は、1,000人ほどのお参りがあり、最寄り駅にまで列ができるとのこと。近隣からは、ベトナム人が集まることに苦情が出て、理解が得られていなかったけれども、コロナ禍の際、マスク、米、カップラーメンなどを、国籍を問わず(日本人を含む)、無償で配布し、それがテレビでも放送されたこともあり、その後は、近隣の理解も得られ、応援してくれるようになったそうです。
大変なことは、日本で亡くなったベトナム人に関する対応ということです。驚くべきことに、チーさんによると、毎年、50~60人のベトナム人が死亡しており、20代から30代が多く、その3割程度が突然死(脳や心臓の疾患)ということです。お寺では、亡くなったベトナム人の火葬、葬儀や遺骨の引き渡しなどの対応をしているそうです。チーさんも法律的なことはわからず、また、母国の家族も法的な問題を気にしていないこともあり、チーさんが関わった中で、過労死と労災認定されたケースは皆無とのことでした。
コロナ禍の時期は、ベトナムの国内がロックダウンとなって手続きが制約され、遺骨を送ること自体が東京経由となり、49日までに母国に送ることに心を砕いていたそうです。現在は、火葬→領事館での手続→(お骨の)帰国が3日間で可能になった、とのことでした。
費用面で問題となるのは、留学生、オーバーステイやエンジニアなどのベトナム人が病気になったり、亡くなったりした場合であり、学校や就労先が関係ないと言い、何ら協力してくれないということです。特に、医療費は自由診療で高額となり、1か月で400万円かかったケースもあったそうです。このようなケースでは、インターネットで同胞の人を中心に募金を呼び掛けて工面をしたそうです。なお、技能実習生や特定技能の方の場合は、実習先又は勤務先の会社が対応するとのこと。
(3)の個別相談については、日本の支援者とも連絡を取り合って、協力を仰いでいるものの、労災や損害賠償請求などの法的な対応に十分結びついていないように見受けられました。今回の訪問で、マイグラント研究会での取り組みについて簡単に紹介し、研究会の弁護士による法律支援のスタンスについてもお伝えすることができましたので、今後の連携に向けて、いいきっかけになったのではないかと思っています。法務省出入国在留管理庁によると2024年6月時点で、日本において在留ベトナム人は60万人を超えています。
日本で生活する外国籍の人々に対するネガティブな報道も見られる昨今、ベトナム人の皆さんが、我々の隣人として生活していくうえで、相互理解が重要であることを改めて感じました。在留ベトナム人であれば、宗教を問わず誰でも受入れ、皆の幸せが自分の幸せと思って取り組むチーさんの活動に触れ、我々も思いを新たにした一日でした。