民主法律時報

「海外派遣労働者に対する安全配慮を考える交流会」の開催

弁護士 松村 隆志

 「海外労働者に対する安全配慮を考える交流会」が、2025年3月4日、北大阪総合法律事務所において開催されました。同交流会は、海外派遣先で息子を過労自死で亡くした上田直美氏と、同じく海外派遣先で夫を過労死で亡くした中江奈津江氏の両名が中心となって呼びかけ、開催されたものです。当日は、会場には13名が、オンラインでは17名の方が参加しました。

 交流会には、①カナデビア(旧日立造船)の社員がタイで過労自死した事案、②大手建設会社社員がラオスで過労死した事案、③ソニー関連会社の社員がアラブ首長国連邦で過労死した事案、④匿名希望の現在訴訟係属中の事案の4つの海外過労死事案のご遺族・弁護士が参加しました。

 交流会では、基調報告として、まず上記の②・③の事案の弁護団の一人である白神優理子弁護士から、「海外勤務者の過労死・過労自殺の現状と課題」と題して報告がありました。海外勤務者については、労災保険への加入が任意となっており、給付基礎日額も任意となっていること、労働時間の規制や管理が適切になされていない、医療体制も不十分であるといった問題があることが指摘されたうえで、今後、海外特別加入制度に関する実態を把握するために必要な調査を行うこと、特別加入制度の周知の徹底、現実の所得水準に見合う給付内容の義務付け等が必要ではないかという問題提起がなされました。

また、①の事案の弁護団の岩城穣弁護士から、カナデビアとの間で海外勤務者に関するマニュアル作成の提案を行っていること、及び、遺族側提案の条項の概要とその趣旨について報告されました。マニュアルの提案内容としては、海外への出発前、現地着任後、帰国後の3段階に分け、派遣者の人選、労務管理の実施、医療体制や相談窓口の確保、日常生活のサポートなど、それぞれの場面で会社の対応を定めたものとしています。併せて、同事案のご遺族である上田氏から、会社と協力して、海外派遣労働者の過労死を防止するためのモデルとなるようなマニュアルを作成し、広く社会に向けて発信したいという考えが示されました。

 次に、事例報告として、参加した4つの事案のご遺族・弁護団から、それぞれの事案について報告がなされました。4つの事案の報告を受け、海外派遣労働者については、そもそも労災に特別加入していなければ労災保険の救済の対象とならないこと、労働時間規制が及ばず、労務管理も不十分で、労災の調査をしようとしてもその事実調査には大きな困難が伴うことといった共通の問題点があることが浮き彫りとなりました。また、尾林芳匡弁護士から、多くの海外案件を扱ってきて、会社としてはオンラインで労働時間や作業の進捗などをすべて把握しているのに、労働者の保護に活用されていないという点に矛盾があるとの指摘があり、海外派遣労働者の労働時間について、企業の側で中立的な機関が管理・チェックすることを受け入れるような仕組みであれば、法改正がなくとも実現できるのではないかという考えが示されました。

 交流会の参加者の賛成をもって、同日「海外派遣者過労死連絡会(仮称)」を立ち上げることが決定され、海外勤務の当事者を含めて広く相談を募り、国に調査や制度作りを求めることになりました。また、今月中にもホームページを立ち上げ、海外勤務に関する相談などを受け付ける方針が確認されました。

 今後も、海外で働く労働者の割合は益々増えていくことが予想されます。海外派遣労働者の保護について、社会全体で重点的に検討すべきではないでしょうか。本連絡会が、そのような社会的な運動の一助になってほしいと心から願います。

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