弁護士 冨田 真平
紹介予定派遣での就労中に産業医からパワハラを受け、その後同産業医と円滑な協力体制を構築できなかったことのみを理由に派遣先の任天堂から直接雇用を拒否された原告2名が地位確認や損害賠償請求を求めた事件で、10月18日、大阪高裁第14民事部(裁判長本多久美子裁判官)は、産業医によるパワハラを認めて任天堂と産業医に損害賠償を認める一方、地位確認や直接雇用拒否に関する損害賠償を認めなかった一審判決を維持する判決を出した。
1 事案の概要
原告は、2018年4月に紹介予定派遣として採用され任天堂で就労を開始した。その採用過程において、任天堂で書類選考及び2度にわたる面接(その内容・態様が採用面接と同様であった)での選考を受けていた。原告は、就労開始後、産業医から指示を受けて業務を行っていたが、同年6月15日のささいな出来事から産業医の態度が一変し、①仕事外しや②無視等のパワハラを受けた。原告らは任天堂の人事部に相談したが産業医に対する指導などは行われなかった。そして、(原告の業務能力・態度は問題ないが)パワハラの加害者たる産業医と円滑な協力体制が構築できなかったため直接雇用ができない旨告げられた。そこで、原告は、①パワハラについて産業医と任天堂に対する損害賠償請求、②直接雇用拒否について㋐任天堂に対する地位確認及び賃金請求、㋑仮に地位確認が認められない場合の予備的請求として損害賠償請求を行った。
2 訴訟における原告の主張と地裁判決
訴訟において、派遣先との雇用契約の成立については、
①原告らと派遣元との派遣労働契約において派遣先である任天堂が実質的な採用決定を行っており、労働者派遣の枠組みを超えていることから黙示の労働契約が成立すること、
②仮に紹介予定派遣の枠組みの範囲内としても、合理的な意思解釈からすれば原告らと任天堂との間で雇用契約の成立(内定)が認められること、
③仮に採用決定時点で労働契約が成立しないとしても、原告の合理的な期待に基づく雇用契約成立が認められること、3つの主張を行った。
また、予備的な主張として、期待権侵害を理由とする損害賠償請求を行った。これに対して、一審の地裁判決では、産業医が原告らとのミーティングを合理的な理由無く廃止した行為や業務に関する相談を無視した行為などいくつかの行為についてパワハラが認められ、産業医の不法行為責任及び任天堂の使用者責任が認められた。しかし、他方で地裁判決は、任天堂がパワハラに関する事実確認、調査、指導を行わなかったことを認めながら職場環境配慮義務違反を否定した。また、直接雇用拒否について、原告の主張をいずれも退けて地位確認や損害賠償を認めなかった。
3 大阪高裁判決
高裁判決は一審判決と同様に産業医の行為についてパワハラとして産業医の不法行為責任及び任天堂の使用者責任を認めた(もっとも地裁判決でパワハラと認定された行為の一つはパワハラに当たらないとした)。他方で、直接雇用拒否についても、一審判決と同様に、紹介予定派遣にとどまる限り、派遣労働契約と派遣先との雇用契約が併存しないとし、また合理的な期待については「職業紹介を経て直接雇用が確実に見込まれる段階に至ったとか、直接雇用をしない理由が不合理であるという特段の事情が存しない限り、直接雇用に向けての期待は法的保護に値しない」として、原告の主張をいずれも退けた。
4 最高裁に向けて
高裁判決において地裁判決と同様に産業医のパワハラを認め、産業医及び任天堂の責任を認めた点は評価できる。しかし、地裁判決と同様に紹介予定派遣制度の趣旨に反して救済されるケースを限定的に解した点は不当である。また、当てはめにおいても、パワハラを認めながらパワハラ加害者との関係構築ができなかった責任を被害者に押しつけ、実質的にはハラスメントがあった際に加害者を優先して被害者を切ってもいいとの地裁判決の判断を維持しており、極めて不当である。本判決に対して上告を行い、闘いの舞台は最高裁にうつることとなった。原告・弁護団として、最高裁に対し、紹介予定派遣制度の趣旨に反する解釈を行っていることや合理的期待を限定している点などの法解釈の誤りを主張し、紹介予定派遣制度がこのような使われ方をしてしまって良いのかという点を問う所存である。引き続き皆様のご支援をお願いする次第である。
(弁護団は、豊川義明、中村和雄、岩城穣、佐久間ひろみ、足立敦史各弁護士と筆者)