弁護士 加苅 匠
1 2024年労弁総会開催!
2024年11月8日から9日にかけて、神戸市内で日本労働弁護団第68回全国総会が開催されました。全ての議題を詳細に報告することは紙面的にも能力的にも不可能ですので、総会の概要を個人的な感想を盛り込みながらご報告します。
2 1日目
1日目は、佐々木亮幹事長による、1年間の労働者をめぐる情勢や課題に関する報告からスタート。労働基準関係法研究会における労基法等の見直しへ向けた議論、解雇の金銭解決制度、フリーランス新法施行、育児介護休業法改正、ハラスメント立法など、課題が山積していることが分かります。続いて、労働基準関係法研究会について、労働者性、労働時間法制、労使コミュニケーションの3点にポイントを絞り、会員が関わっている事件などを踏まえながら議論をしました。労働者性については、40年前の労基研報告基準の見直しや労働者推定規定の創設を求める運動に加えて、実際の裁判においても40年前の基準にとらわれない枠組みや理論をもって主張を展開すべきだといった意見もでました。このような「労働法制の改善を目標に据えて裁判での主張のあり方を検討すべき」といった意見が飛び交うのは日本労働弁護団ならではだなと思いました。
後半は、城塚健之弁護士による「非正規公務員立法提言」(非正規公務員の地位・処遇是正のための本邦初の立法提言)についての報告を皮切りに、育児介護法の改正やカスハラ防止法制、スキマバイト、全国各地の裁判闘争などに関する報告と議論が続きました。私からも、大阪万博開催に伴うライドシェア全面解禁を巡る情勢や問題点について報告させていただきました。
その後は、みなさんお待ちかね(?)の日本労働弁護団賞授賞式。今年は、①滋賀県社会福祉協議会事件、②あんしん財団事件、③AGCグリーンテック事件の原告・弁護団らが受賞しました(事件・判決の詳細は断腸の思いで省略させていただきます・・・。)。いずれの事件も、職場でつらい経験をされ、その上裁判でもつらい思いをされた原告が、弁護団に励まされながら(弁護団によっては叱られながら?)裁判を闘い、素晴らしい判決を勝ち取ったものです。原告と弁護団の間の強固な信頼関係なしでは勝利判決を勝ち取ることはできないことをひしひしと感じました。
3 2日目
2日目は、緒方桂子教授(民法協副会長)による「ケアと労働―持続可能な未来を構想する」と題する基調講演がありました。労働者を「ケア(育児、介護、看護)を引き受ける者」を基準とした概念として捉え、労働法の解釈や法政策に反映させることができないかというのが基本的な構想です。講演では、転勤や時間外労働規制などの各論について、ケアの視点を踏まえてどのように解釈すべきか、どのような法政策が求められるのかを、具体的にお話していただきました。これまで漠然とイメージしていた「ケアの倫理」と労働政策や職場の問題とをぐっと結びつけることができました。続いて、鎌田幸夫弁護士による羽衣学園事件最高裁判決の報告など、前日に引き続き全国各地の裁判闘争に関する報告が行われました。総会の最後は決議案の提案と採択。今年は、労基研の議論に対する決議やハラスメント防止法制の実現を求める決議など合計6本の決議案が採択されました(決議は日本労働弁護団HPからご覧ください。)。
今年も内容盛りだくさんで熱量のこもった議論が行われました。現場からの報告は以上です!