民主法律時報

大学教授休職命令無効裁判3カ月で勝利和解、職場復帰の報告

弁護士 渡辺 和恵

労働弁護士と称すること約50年。このところ、セクハラ・パワハラの相談があっても裁判にならず、小企業の事業主と労働者の紛争で使用者側代理人の裁判に関与したりと、世相の変化を深刻に受け止めていました。
そこに大学教授のAさんから突然、2日後に休職命令が発効するとのことで急ぎの相談がありました。休職命令事件は初めてですが、大学教授としての授業担当やゼミも完全にされているとのことで、こんなバカなことがあるかが私の第一印象でした。早速、学校法人(大阪市内に所在する4年制大学)の理事長に即刻考え直して欲しいと電話を入れましたが、応じる気配はありませんでした。こんな事件を裁判させるのは理不尽と考えましたが、やむなく労働審判申立の準備に入りました。本裁判をするほどでもないと考えました。

そうこうする内に、Aさんは発令日の4月1日に、いつもと同様に車で大学構内の駐車場に車を停め、ドアを開けたところ、学部長を含めた教職員に取り囲まれ、学舎に入ることを阻止されました。Aさんは果敢にこれと対峙し、これを動画にとって、証拠にまで出しました。

結局、4月中旬に構内立入妨害禁止仮処分の申立との2本の提訴となりました。その後、4月22日民法協のブラック企業対策!労働判例ゼミが「休職期間満了と労働者の地位」をテーマに開かれ、いくつかの判例の紹介を得て、Aさんへの休職命令は「期間満了による退職」を狙ったものであることを学びました。「病気」にかこつけて、公平であるべき産業医を使ってこの事件を起こしたことにも気づきました。企業側が対価を支払うべき労働者側の労務の提供が出来ないケースではないことが明白であることを主張・立証しました。他に目的があるとの主張・立証をしました。裁判が2つであることも功を奏し、両裁判が同じ民事5部でもあり、4月・5月・6月とテンポよく審理を進めることが出来ました。その間、Aさんは相手方代理人を通じて構内に入る許可を得て「出勤」を続けました。

相手方は「速やかに退出し、健康に配慮する義務」を履行するように通告してきました。しかし、Aさんは職場に早期に復帰し、学生たちと学び合うことを楽しみにこの攻撃にもひるみませんでした。加えて、学生たちは「A先生が病気であると言われていますが、本当ですか」とメールで問い合わせもしてきましたが、Aさんは他言は出来ないとよく耐えて、本件和解するまで「待っていてね」とだけ言い続けました。

この学校法人には職員の36協定がありますが、教員の36協定はありません。しかし、教員の特例法まがいの無制約の残業・休日労働が命ぜられており、誰もこれに異議を言いません。これに公然と異存を唱えるのはA先生だけです。ここまで読んでいただいた読者の方は、A先生は男性だと思われていましたか。実はAさんは女性です。「女は話が長い、口がうるさい」は政治の世界だけでなく、どこでもあるのです。本件では「給与を3カ月はカットなし、その後は8割カット、休職期間は1年間」とするものでしたが、和解により次の条項の勝利となりました。

1. 本件休職命令を撤回し、7月1日から職場に戻る
2. 本件休職命令による不就労について、今後一切の不利益取扱をしない

司法記者クラブの記者の皆さんも、提訴に当たっての記者会見も熱心に応じていただき、勝利報告にも、A先生の元ゼミの学生たちがA先生の専攻をこれからも求めるなら大学は変更を認めるとの条項に、「いい学生さん達ですね」と喜びを共有する言葉を寄せられました。60才代となっているAさんは定年の70才の日を迎えるまで、学生たちと大事にこれからの人生を生きますと誓っておられます。今一番の関心は、労働の現場がどうなっているか、労働の法規がどうなっているのかだと言われています。民主法律協会の存在もこの度のことで大変興味を持たれています。

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