民主法律時報

違法な滞納処分に対する国家賠償請求事件(控訴審)の不当判決について

弁護士 西 川  裕 也

1 はじめに

国が行った給料債権の差押えが違法であるとして国家賠償請求等を求めている訴訟において、令和5年12月7日に大阪地方裁判所第7民事部(裁判長徳地淳)が、原告の請求をいずれも棄却するという不当な判決を下した。それに対して、令和5年12月20日に大阪高等裁判所へ控訴したものの、令和6年6月20日に、大阪高等裁判所第1民事部は、当方の控訴を棄却する旨の不当な判決を下した。上記の大阪地方裁判所及び大阪高等裁判所の不当な判決を覆すべく、既に上告及び上告受理申立てを行い、最高裁判所での闘いに向けた準備を進めている。

2 事案の概要


事案の概要、本件訴訟の争点等は、本件に関する大阪地方裁判所の不当判決が下された際の報告に詳細に記載しているため、本稿では概要だけを記載する。

(1)先行滞納処分及びこれを違法とした先行訴訟の高裁判決
原告は、税務署により原告の給料の振込口座が差押えられたことを受けて、先行差押処分及び先行配当処分の取消しや国家賠償又は不当利得返還を求め、大津地裁に訴訟を提起した(先行訴訟)。先行訴訟では、地裁は原告の請求を退けたものの、高裁は、先行差押処分が実質的に差押えを禁止された給料等の債権を差し押さえたものと同視することができる場合に当たり、差押禁止の趣旨に反するもので違法となるとして、差押可能範囲を超えた金員について不当利得返還請求を認めた。その後、国は、上記の高裁判決に従い、原告に対して、不当利得として判決理由で違法とされた2万5307円を返還した。
(2)返還した2万5307円分の国税支払要求、被告の説明拒否、差押え
その後、税務署は、上記(1)で2万5307円を返還したことで滞納国税が増加したとして、原告に対し、これを含む滞納国税の支払いを求め、令和3年5月18日、原告の5月分の給料債権に対して差押処分(本件差押処分)を行い、配当(本件配当処分)を行った。
(3)本件訴訟の提起
原告は、本件滞納処分(本件差押処分及び本件配当処分)が違法であり、また説明を拒否した点も違法であるとして、国家賠償及び不当利得返還を求めて令和3年10月18日に大阪地方裁判所に提訴した。
(4)大阪地方裁判所の不当な判決
本件では、不当利得返還請求(主の争点は、本件差押処分・配当処分に基づいて得た本件徴収金の法律上の原因の有無)及び国家賠償請求(本件各滞納処分等の国賠法上の違法性の有無や説明義務違反)の成否が争われた。

大阪地方裁判所は、滞納処分によりいったん充当まで行われた(したがって税務署の処理としてはいったん消滅した)滞納国税が、その後の訴訟で同滞納処分の違法性及び不当利得返還が認められることで、消滅しなかったものとされ、同滞納国税について再度滞納処分が行われるといった行為を、明文の規定なく行えるのか等といった問題について合理的な説明をすることなく、国の主張(いったん充当まで行われたとしても、その後の訴訟で滞納処分の違法性が明らかとなった場合は、対象となった滞納国税は依然として存続している)を採用し、原告の請求を棄却した。

3 大阪高等裁判所の無責任な判決

弁護団は、控訴理由書において、原判決の判断、概ね以下の3つの観点から誤りがあると具体的に主張した。
①国税徴収法は、差押処分↓配当処分↓充当を一連一体の手続として定めており、充当の効力(租税債務の消滅の効力)のみ切り離すことを認めていない。
②国税徴収法は、充当に行政処分性があるか否かという論点の帰結をもって、充当の効力(租税債務の消滅の効力)を配当処分と完全に切り離すことを認めていない。そもそも国税徴収法は、充当についても行政処分性を認めており、原判決は論拠の前提を欠いている。
③仮に原判決の解釈を採用したとしても、国は先行滞納処分時から充当の有効性を主張し、当事者の審査請求をする法律上の利益を奪い、第一審・控訴審と最後まで争い続け、一貫して租税債務の消滅を前提に行動してきたのであるから、先行訴訟で敗訴したからといってその態度を反転させ、租税債務は消滅していなかったとして再び本件各滞納処分により徴収することは、信義誠実に反し、また権利濫用でもあり、許されない。

しかし、大阪高等裁判所は、上記の主張に対して、特段、新たな判断を示すことなく、原判決の判断に誤りがないと述べるのみであった。本件が国から市民に対して行われた滞納処分の違法性を問うものであって、社会的にも重要な意義を有するにもかかわらず、控訴審の判決書における判示部分の記載は僅か3頁しかなく、原判決の判断に誤りがない、という判断のみを示す大阪高等裁判所の判決はあまりにも無責任なものと言わざるを得ない。このような違法・不当な判決は是正される必要があることから、最高裁判所において適切な判断が下されるように努める所存である。

(弁護団は勝俣彰仁、牧亮太、楠晋一、尾﨑彰俊 冨田真平、西川裕也)

 

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