弁護士 垣 岡 彩 英
1 はじめに
令和5年10月27日付で、大阪府労働委員会から、国家公務員共済連合会・大手前病院(以下、「大手前病院」)によるコロナを理由とする団交拒否は不当労働行為に該当し、大手前病院から国共病組・大手前支部(以下、「組合」)に対して、「今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。」という旨の文書を手交せよとの命令をもらいましたので、ご報告します。
2 事案の概要
事案は、これまでもコロナ禍を理由に団体交渉を拒否されてきた組合が、2022年7月11日、大手前病院に対して、有給休暇の取得率や病棟内でのハラスメント問題などについて団体交渉を申し入れたところ、大手前病院が「コロナ感染の終息」後に応じると述べて、団体交渉を拒否したというものです(事案の詳細は、佐久間ひろみ弁護士が2022年11月号の民法協ニュースに記事を書いていますので、こちらもご覧ください)。
3 組合側の主張と命令
組合側は、大手前病院が団体交渉を拒否していた期間にも、一定人数での対面での会議が行われていたことや、大手前病院が、新型コロナの感染状況がどのレベルになれば団体交渉を実施する等の具体的な目途すらも示しておらず、感染防止策も提示していないこと等を主張しました。
令和5年10月27日付の命令では、「当時のコロナの状況(大阪では1日の感染者数が連日1万人を超えていた時期)からすると対面での会議は躊躇する状況にあったが、同時期に病院では他の会議を対面で開催しており、他の会議と団交で異なる対応をとったことは病院の方針に統一性がない。」「病院の回答は、『コロナ感染の終息後』とあるだけで、団交開催に向けた具体案が示されていない。対面以外での団交の提案もない。」などを理由に、正当な理由のない団交拒否だと判断されました。そして、大手前病院から組合に対し、「貴組合からの令和4年7月11日付け団体交渉申入れに対する対応は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。」との文書を手交するよう命じました。
コロナを理由として団交拒否がされた小西生コン事件・中労委命令においては、団体交渉を対面で実施することの重要性などに加えて、他の労働組合と団体交渉を開催していたことも不当労働行為の根拠の一つになっています。本件では、他の組合との組合間差別ではなく、病院の業務に必要な他の会議が対面で開催されていたことと対照して、不当労働行為と認定された点で、意義があるといえます。
また、本件の事業主が医療機関であったことから、大手前病院もその点を強調し、「新型コロナ拡大防止の観点から、団体交渉に応じなかったことには正当な理由がある」旨を主張していたのですが、大阪府労働委員会の判断の根底には、コロナ禍であっても、医療機関であっても、労働組合の団体交渉の重要性は不変だとの考えがあるように思われます。
4 おわりに
組合の救済申立て後、大手前病院は団体交渉に応じたのですが、具体的な回答をしない、具体的な根拠・資料も示さないなど不誠実団交を繰り返したため、組合は追加申立てをしています。先月(11月)16日に尋問を終え、大阪府労働委員会から、組合の勝利的和解案が提示されたため、和解に向けて協議しているところです。
会員の皆さまにはこれまでもご支援をいただいていましたが、引き続きご支援をお願い申し上げます。
(弁護団は、西川大史・佐久間ひろみ及び当職)